【PickUp 産学連携】町工場が研究スピードを加速する

【PickUp 産学連携】町工場が研究スピードを加速する

大企業の海外への生産拠点の移行、中国をはじめとしたアジア諸国の台頭、後継者不足など、様々な角度から日本のモノづくりの基盤を支えた町工場の存続が危ぶまれている。そんな中で3月1日、リバネスは墨田区の町工場である浜野製作所とともに町工場、研究現場双方の活性化に向けた新たなサービス『EngineerGARAGE(通称:E-GA)』をスタートさせる。研究スピードの加速と研究コストの削減というコンセプトを形にした製品の第1弾は、電気泳動の効率を最大6倍まで引き上げる製品だ。

浜野製作所

電気泳動の効率を加速する、平凡な製品

長谷川 今回、発売開始する第1弾の製品「メガコーム」は、電気泳動の効率を最大6倍まで引き上げます。とはいっても、要は電気泳動で使うゲル用のコームの歯を細かくして、3個を一度にセットできるようにしただけなんですけどね。

浜野 私の会社は金属加工を中心に、長年色々なモノづくりをやっていますが、まさかこんな需要があるなんて思ってもいませんでした。シンプルな構造だったため、大きな技術的課題もなく作ることができました。

長谷川 たしかにリクエストとしてはとてもシンプルです。ただ、細かいこだわりがたくさんあるんですよ。例えばコームの歯の数は34個。左右の端にマーカーを流して、残りの32個の穴にサンプルを入れるためです。これを1枚のゲルに3つセットすれば96サンプルを流せます。サーマルサイクラーは96ウェルが一般的なため、その数に合わせたんですよ。

浜野 そういう発想は、私たち町工場の人間には絶対にできません。大学の研究室でどんな研究をしているなんて、想像もできませんから。

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メガコーム1

歯の幅は2mm。5mm程度の厚さのゲルを作れば、8μlをアプライできる。

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メガコーム2

一般的によく使われるゲルトレイ用に設計された。

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メガコーム3

表面に刻まれた「Designed by リバネス Assembled in 墨田」の文字

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普通の町工場に特別な技術はない

長谷川 でも、この製品を思いついたのは、実は浜野さんとのディスカッションがきっかけです。私は元々大学院の専攻が機械工学だったんですが、日本の町工場に1つ大きな疑問があった。それは、「本当に町工場に独自の高い技術なんてあるのか」ということ。そんな疑問を浜野さんにぶつけたんです。

浜野 そうそう。テレビや雑誌で紹介されるような独自の真似できない技術を持っている町工場なんて、実際はほんの一握りの熟練の技術を持つ職人がいるところだけ。普通はそこまで特化した職人はいません。そうすると、技術=工場にある設備ですから、乱暴な言い方をすれば同じ設備を入れれば同じ技術を持ってしまう。もちろん、そこから色々と工夫はできますが。でも日本のモノづくりを支えてきたのは、実はこういう会社なんです。

研究現場は宝の山

長谷川 その話を聞いて考えたのは、誰にも真似できない技術ではなく、アイディアで付加価値を付けなければいけないということです。色々と考えていたら、学生時代に自分で実験装置を設計していたことを思い出したんです。オリジナルな実験装置を作りたい、研究室の備品をちょっとカスタマイズしたいという研究者のニーズは他にも絶対にあると思いました。
あとは実験機器もシンプルな構造なのに、なぜか高価なものも多い。リバネスがハブになって研究者のニーズと町工場を繋げることで、輸送コストがかかる上に細かいニュアンスを伝えられない海外の工場より、安価でいい製品をつくることができると思ったんです。

浜野 たしかに、私たちもアイディアを教えてもらえば、できるだけ安価で便利にする工夫を考えることができます。大量生産しない小ロットなモノなら、よっぽど安い価格で品質の良いものをつくれますよ。

長谷川 ただ、そういうコンセプトを固めた後で解決しなければならなかったのが、研究者へのアピールの仕方です。なんでも作れますという広告を出しても、イメージがわかない。だから、できるだけシンプルで、研究者が喜ぶものをコンセプト製品として作れば、それを指標に色々な要望をもらえると思いました。そして生まれたのが、メガコームだったんです。

コミュニティビジネスとしてのモノづくり

浜野 そういえば、コームに書いた「Designed byリバネス Assembled in墨田」というフレーズも面白いですよね。

長谷川 これは、町工場を活性化しようというE-GAのコンセプトを表したものなんです。特別な技術を持たない町工場は全国にある。そして、大学も同じように全国にある。町工場の多くは、従業員数も少ない分、そんなに大きな売り上げがなくてもやっていくことができる。だから、地域の大学と町工場をつないでいけば、地域で完結するコミニティビジネスとしてモノづくりを実践できるはずです。町工場の技術者が研究者のパートナーになれれば、実験機器を改良して効率化したり、高い機器を買わずに研究コストを抑えられるんです。まずは浜野製作所と一緒に墨田区の町工場を盛り上げて、そこで得たノウハウをもとに、いろんな地域で大学と町工場のネットワークを全国につくっていきたいですね。