砂漠のBATTA MAN

砂漠のBATTA MAN

アフリカ大陸の北西,サハラ砂漠の西部にあるモーリタニアという国には,サバクトビバッタ専門の研究所があります。ここに,砂漠よりアツいバッタを愛する研究者がいます。

バッタの「変身」

サバクトビバッタは通常,緑の体色の「孤独相」として単独で暮らしています。そこに気温,エサなどの条件が揃うと,大繁殖して高密度集団になります。すると黒い体色の強い飛翔力を持つ「群生相」になり,新たなエサ場を求め群れで移動します。時にまちを覆いつくすほどの巨大な群れは,1 日に百キロ移動しながら作物を食べつくします。もはや殺虫剤では間に合いません。数千年もの間,人類はバッタとの熾烈な闘いをくり広げてきました。

母が子に託すもの

前野浩太郎さんは日本の農業生物資源研究所で,母親が経験した混み合いが子へ伝わる「母性効果」を研究していました。生き物には一般的に,卵を大きくすると数は少なくなる「トレードオフ」の関係があります。 バッタも同じで,群生相化した母は大型で少数の卵を産みますが,そこから生まれる子は,通常の孤独相ではなく群生相になるのです。これは,母から子へ群れの競争を生き抜く力を与えるためだと前野さんは考えています。

日本の実験室からアフリカの生息地へ

日本での成果はあくまで養殖したバッタのもの。次第に野生の彼らの素顔を知りたいと思い,前野さんは2011 年にモーリタニアに渡りました。1 回のフィールド調査は4 泊5 日のキャンプ。砂漠の真ん中で寝る間を惜しんで観察します。研究の基本スタイルは,自分の目で観察し,数,高さ,長さをひたすら測り記録すること。「小学生でもできることを誰にでもできないクオリティでやる」という信念は,機材に恵まれない砂漠で真価を発揮しています。これまでの調査により,砂漠の一部の地域では彼らはトゲのある植物に集まり,天敵から身を守るための窠にしている可能性が示されました。生態観察から相変異のメカニズムを知り,対策方法を見つけることができれば,バッタは平和な隣人になることでしょう。この闘いを終わらせるのは,バッタを愛する研究者ヒーロー「BATTA MAN」かもしれません。(文・佐伯 真二郎)

協力:前野 浩太郎(まえの こうたろう)日本学術振興会 海外特別研究員
2008 年 神戸大学院自然科学研究科博士課程修了。農学博士。日本学術振興会特別研究員PD を経て,2011 年から日本学術振興会海外特別研究員(受入機関:The Mauritanian Desert Locust Centre)。

前野さんのブログはこちらです

砂漠のリアルムシキング



トノサマバッタの色を変えよう!

日本で見られるトノサマバッタも集団で飼育すると相変異が起きて黒くなります。
また,背景の色や湿度でも体色が変わります。バッタの七変化にチャレンジしよう!
<用意するもの>
トノサマバッタの幼虫(10 匹)飼育ケース エサ(イネ科の草) 色画用紙
<補足資料>
バッタを捕まえやすい場所や実験のポイントを下記のPDFファイルに掲載しています。
トノサマバッタのプロフィール

◆someone賞の詳細についてはこちらをご覧ください。
http://someone.jp/someoneaward01/

 

 
 

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