プランクトンの巧みな生存戦略に迫る 吉田丈人

プランクトンの巧みな生存戦略に迫る 吉田丈人

東京大学 総合文化研究科 吉田丈人さん

水中をのんびりと漂うだけの、かよわき生き物。プランクトンのことを、そう思っているなら、考え直したほうがいいのかもしれません。肉眼では見えないほどの小さなからだに「個性」という武器を忍ばせて、厳しい生存競争を巧みに勝ち抜いてきたのです。

 

ツノだせ、トゲだせ、シッポだせ

プランクトンと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「ミジンコ」ではないでしょうか。そんな彼らの戦略はツノやトゲをニョキニョキと生やすこと。捕食者の存在を感知すると、自らのからだを変化させることで対抗しているのです。

ツノを生やすのかそれともトゲを生やすのかは、ミジンコの種類によって違います。中くらい大きさのD.ambiguaは、シッポを針のようにツンと伸ばすと同時に、頭のてっぺんからツノを生やします。また、大型のミジンコであるD.pulexは、頭にトゲは生やしませんが、首の部分にネックティースとよばれるトゲをつくり出します。

こうした反応の違いは、それぞれ敵となる捕食者が異なっているため、対抗すべき相手に合わせて個性を進化させたものだということがわかってきています。

A)トゲを生やすD.pulexと、B)ツノを生やすD.ambigua
写真提供:東京大学 永野真理子さん

 

食べられるのに数が減らない? 人工生態系で見つかった新発見

こうした個性の違いによって、種を生存させてきたと考えられる例は他にもあります。吉田さんは、その中でも「緑藻」という植物プランクトンとそれを食べる「ワムシ」の関係に着目しています。

研究の方法は、高さ30cmほどの円筒形の装置に、緑藻とワムシを入れて、人工的に生態系をつくり出すというもの。自然界でみられるのと同じように、食べられる―食べるという関係をもつ緑藻とワムシは周期的に増減をくり返します。この装置を使って、餌となる緑藻の種類など条件を変えたときに、生態系にどのような変化が起きるかを再現し、調べているのです。

そして、あるとき、捕食者のワムシは増減をくり返すのに、餌となる緑藻の量が変わらない、という不思議な現象が見られました。詳しく調べてみると、緑藻にはワムシに食べられやすい性質をもつもの(仮に緑藻Aとします)と、そうでないものの(こちらを緑藻Bとします)2種類がいることがわかりました。

ワムシが積極的に緑藻Aを食べているときには、食べられにくい性質をもつ緑藻Bが増殖して数を補います。反対にワムシが少ないときには緑藻Aが増える一方で、緑藻Bは緑藻Aに押されて数が減り、全体としては一定の数が保たれていて、絶滅につながるような数の変動が起きにくいことがわかりました。緑藻もまた、個性を武器にした生存戦略をもつプランクトンの1つだったのです。

この装置の中に、緑藻とワムシの人工生態系が再現されている

 

プランクトンのすべてが知りたい

2009年から吉田さんは、プランクトンの異常繁殖などを引き起こす富栄養化に悩む、福井県にある三方五湖の自然再生プロジェクトにも携わっています。実地調査だけでなく、ときには近隣の農家さんに聞き込み調査をしながら、問題点を明らかにし、解決策を探っています。

プランクトンのことなら基礎、応用関係なく研究し、すべてを知りたい。そんな吉田さんの研究により、ヒトがプランクトンとうまく付き合うことができる、そんな未来が待っているのかもしれません。

 

東京大学 総合文化研究科 吉田研究室HP
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/yoshidalab/ji_tian_yanHome.html