高校で習ったDNAのイメージからジャンプせよ 太田邦史
生き物はなぜこんなにもたくさんの種がいるのだろう。
その理由は生き物の設計図であるDNAにある。
誰も、生物の多様さを説明しきれない
太田さんは「私も高校生くらいのころに生き物がどうしてこんなにたくさんいるんだろう、と思ったけれども、誰もこれだけ多様な理由を説明しきれないんです」と話す。
生き物の種は何万種と言われる。同じ種のなかでも、同じ人は一人としていない。
深海や熱帯雨林のなかにはまだ見ぬ昆虫や微生物などたくさんの生き物がいる。
こういった謎のカギになると言われたのがDNAだ。
高校生物では見落とされていたDNAの性質
DNAは親から子へ受け継がれ、生命の設計図として機能する物質だ。
高校生物の教科書にはDNAが正確にコピーされる仕組みがかなり詳しく載っている。
高校までのイメージでは、「DNAは正確にコピーされ、変わることなく増えていくもの」なのだ。
しかし、太田さんが見ている世界は、高校生物で語られるDNAのイメージとはずいぶん違っているという。
「設計図というと静的なイメージでしょうが、しかし実際のDNAは微妙な変化が常に起こっています。
常に正確なコピーをつくるというイメージも間違っていたのです」
太田さんは、DNAには日々変化が起こり、ダイナミックに動くものというイメージを強調している。
DNAにゆるみが生まれ、書き換えられる
いったいなにがダイナミックなのだろうか。
最近の研究で、「DNAが紐状にまとまった構造が染色体に、いろいろなことが起こっているのがわかってきました」という。
染色体がほどけたり、ゆるんだりして、DNAの文字列を変化させるために大きな役割を持っているのだ。
太田さんの研究は「何が染色体の動きをコントロールするのか」を明らかにすることだ。
そのカギが、DNAとヒストンたんぱく質が組み合わさったクロマチン構造である。
普段はDNAとヒストンたんぱく質はしっかり絡みあって折りたたまれているが
何かにコントロールされて、構造がゆるむことがある。
ゆるんだ構造のときに、DNAが切断されて、再編成につながっているのだという。
クロマチン構造がゆるんだ部分のことをホットスポットと呼び、
太田さんはホットスポットがどうやってつくられ、どのように変化をおこしているか解き明かすことを目指している。
しかも、このホットスポットの理解によって細胞のがん化や、
メタボリックシンドロームの原因が理解できる可能性があるという。
太田先生は「基礎研究はまだまだ深いところを攻めて行ける」と強調する。
DNAが解読されてかなりの年月がたったが、新しい仕組みを発見する余地が誰にも残されているのだ。
太田邦史 研究室HP
東京大学大学院総合文化研究科-教授。
理学部生物化学科 ・理学系大学院生物化学専攻兼担。
Written by Yusuke Shnozawa