休日の大敵「渋滞」を解消したい 大口敬

休日の大敵「渋滞」を解消したい 大口敬

旅行や遊園地を楽しんだ帰り道,大渋滞に巻き込まれて運転中のお父さんはイライラ…。楽しかった気持ちもしぼんでしまった経験はありませんか?東京大学生産技術研究所の大口敬教授は交通渋滞を解消し,快適な道路を作ることを目指して研究しています。

科学の力で渋滞を解消したい

 私は交通工学という耳慣れない分野の研究を行なっています。交通工学とは車をはじめ,自転車や歩行者の移動を安全かつ快適にするためにはどうすれば良いかを科学的に考える学問です。河川が雨で増水しても洪水を起こさずうまく流れるよう治水を行なうのと同じです。私は若い頃から車で遊びに行くのが好きでしたが,やはり渋滞を不愉快に思っていました。あるとき,「科学の力で渋滞を解消したい」と思い,交通工学の道へ進みました。

渋滞地点では偏りがあった

渋滞といえば高速道路が思い浮かぶのではないでしょうか。大型連休のたびにニュースで東京方面○○付近で△△kmの渋滞という言葉を耳にします。料金所やインターチェンジなどの合流点で発生する渋滞は原因が明確ですが,明確な原因がわからない渋滞も存在します。渋滞しやすい地点をよく調べてみたところ,興味深い発見がありました。そのような渋滞地点では,すべての車線で均一に車が走っておらず,右側の車線に多く偏っているということがわかったのです。

私はこの偏りを解消し,それぞれの車線に分散させることができれば渋滞の解消につながるのではないかと考えました。そこで,混雑しやすい地点で一時的に右側に車線を追加し,ある程度先で左車線をなくす形で車線数をもとに戻すというアイディアを提案しました。こうすることで偏りをなくすことができるのではないかと考えたのです。このようなアイディアは検証することが非常に困難です。なぜなら実際に新たに道路を作ってみなければ効果がわからないためです。ところが,うれしいことにこのアイディアは採用され,高速道路で実際に試験運用されました。その結果,期待通りに偏りは解消されました。科学的な分析に基づく推測が実際の高速道路で確かめられたのです。

科学で道路を綺麗に流そう

人が感じるイライラは高速道路に限ったことではありません。一般道路においても,信号の青から黄色,赤への切り替えや変わり目の時間を調整することで,信号待ちの時間を減らしてイライラ解消を目指しています。しかしその大前提には歩行者や自転車の安全があります。こういった研究は人の心理も大きく関与する(変わり目の時間が長いとわかると,かえって赤信号を渡る歩行者が増えてしまうなど)ため,非常に難しい研究分野です。世界的に見てもほとんど例がありませんが,難しいぶん一層安全で効率的な道路を作ることにやりがいを感じています。人間は陸上を移動する動物で,道路は生活空間といえます。しかしその生活空間にはまだあまり科学の目が入っておりません。中学生高校生のみなさんもどんどんこの未知の領域に踏み込んでいき,道路に物理法則のような綺麗な流れを作りませんか。

東京大学生産技術研究所先進モビリティ研究センター教授

大口 敬

大口先生の本棚を見せてもらいました!