異端は認められた瞬間に先端に変わる 菅 裕明

異端は認められた瞬間に先端に変わる 菅 裕明

東京大学先端科学技術研究センターの菅教授の部屋に入るとまず目にはいるのは黄色いギター。
異端を匂わせる、そんな教授室だった。 

キーワードは「没頭」「退路を断つ」「目標」だ。

高校時代の担任の先生には「まさか東大で化学の教授をやるようになるとは」と言われるという。
何しろミュージシャンになりたかったから」。

岡山出身で地元の岡山大学工学部工業化学科へと進学したのは、どうしても化学がやりたかった訳ではなかったのだが、そこから菅先生は研究者の階段を登り始める。

過酷な道を行く 

大学時代、しんどいラボだということはわかっていたが、「やってやるぞ」と、そこに入った。

研究を始めてみると、どんどん面白くなっていく。

修士2年の時に休学してスイスへと留学する。ずっと岡山で育ってきた菅先生が初めて国外へ。ここで見えたのが、外国人と付き合っていく上での文化的な関係の構築方法だった。

収穫は研究のみではない。一年して日本に戻り修士を卒業する。

海外へ行ってしまおう

30年くらい前。国内で大学を移動するのも大変だった時代。どうせ大変なら、国内じゃなく、アメリカに行ったほうがいいのではないか?と思い立つ。
どうせ超えるなら、ハードルは高いほうが良い。この精神は学生時代から未だに変わらないスタイルだ。
マサチューセッツ工科大学の正宗 悟先生に手紙を書き、「大変だと思うが、来なさい」と返事をもらった。日本での退路を全て断ち、現地へと赴く。この自分を追い込むスタイルが菅流である。

 実はアメリカに行きたかったのにはもうひとつ理由がある。
有機化学をやってきたが、それだけをやっていたらダメだと思っていた。
有機化学と一緒に生物をやりたい。当時の日本にそういう人はいなかった。
アメリカでは、有機化学のトップの先生が生物もやっている。なぜ?そこに興味があったのだ。 

アメリカでやれることは全部やった

東京大学大学院理学研究科化学専攻生物有機化学教室 菅 裕明教授

東京大学大学院理学研究科化学専攻生物有機化学教室 菅 裕明教授

アメリカでは、アカデミックに立つ事を目標とする。博士号を取得し、大学のポストを得る。これだ。
MITでは学生間の競争心が物凄く強い。
叩き上げの学生たちが切磋琢磨する環境。そのMITでトップにならないと次のステップへ行けないというのが苦労した時期だという。
博士号を取得し、ポスドクになってから、ポストを取るのが大変。英語の壁ももちろんあった。
この大きな壁を超えられたのは同級生の存在だったという。
ニューヨーク州立バッファロー大学化学科のテニュア准教授になった菅先生は、研究者として一人前になるという目標を10年余りで達成し、「日本で教育をしたい」と、活動の拠点を東京大学へと移した。 

次の7年を見ていけるかどうか

アメリカ時代の研究室ではRNAとタンパク質の研究をしていた。RNA触媒のフレキシザイムを発見し、これを使って何をするかというタイミングで東大へと移籍する。
それまでタンパク質の仕事をやっていたのを全てやめて、ペプチドへと切り替えた。これによって研究の世界が大きく広がっていく。
留学の時も同様だが、スパっと退路を断ち、次のステップへと駆け上がる。
「だいたい7年周期で切り替えてるよ」と話す菅先生。次の7年を考えられるかどうかが、成長を決めるのだ。 

異端は認められた瞬間に先端に変わる

自らを「”異端”を信念と熱意をもってやってきた」と話す菅先生。

やらなきゃならないこともやっているけど、面白いと思ったこともちゃんとやる人がユニークな発想を持つのだ。面倒でも、それを続けられる。「時間をかけて」信念を持ってできる。そんな人が世界を切り拓いていくのだと話す。

異端と言われ続けても、その異端が認められた瞬間、先端に変わるんです

こう話す菅先生の元で、今日も新しい知見がうまれている。 

菅先生の研究室について

ホームページにはこうある

当研究室では、有機化学の考え方と技術を生物学に取り入れることにより、
これまで解決が困難であった研究課題に挑戦しています。
また、サイエンス(科学)とテクノロジー(科学技術)のバランス良い研究を推進することで、
新しい概念を築くような科学的知見の獲得、汎用性の高いバイオテクノロジーの開発、
そして創薬にまで繋がるような奥行きのある研究をしています。
さらに、切磋琢磨できる研究環境をつくり、独創的で国際感覚に溢れた人材の育成を目指しています。

複数の分野の融合というのが掲げられているが、これは菅先生自身の軌跡でもあるのだ。
化学から生物を学んだり、音楽好きで耳が良かったのが、英語学習に役立ったりと、人生何がプラスに働くかはわからない。
心を閉じずに、興味を持ったら、その時感じた面白さを突き詰めて没頭することが重要だと話していたのが印象的だった。 

菅先生からのメッセージ

菅先生の本棚を見せてもらいました!

東京大学大学院理学研究科化学専攻生物有機化学教室 菅 裕明教授

東京大学大学院理学研究科化学専攻生物有機化学教室 菅 裕明教授の本棚

紙の本は最近読まないなとのこと。すっきりした本棚です。電子化されてるんですよね。

リンク

研究内容

リボザイム、クオラムセンシング
“切磋琢磨”で異端から先端へ切り拓く

URL:http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/profiles/001/index.html

人工リボザイムを用いた遺伝子暗号のリプログラミングと高機能蛋白質の創製

URL:http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/projects/2003/003/index.html

ケミカルバイオテクノロジーと創薬(冒頭あいさつ)

URL:http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/rcast/videolibrary/events/2006/openhouse/

菅研究室

http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/users/bioorg/index.html