カタクチイワシの愛情弁当
お味噌汁のだしに使われるにぼしや,釜かまあ揚げされた小さくて白いしらす。
これらはカタクチイワシを加工したものです。
日本沿岸の表層域に大き な群れで生息するカタクチイワシのメスは,春から秋にかけてひたすら卵を産みます。
しかし,長期間にわたり海水温が約10 ~ 28℃と大きく変動するため,稚魚のエサとなるプランクトンが増減しやすく,稚魚の生存率に影響が出ます。
そこで,母魚が用意 するのが,卵黄という「栄養たっぷりのお弁当」です。
低水温ではプランクトンが増殖しにくいため,孵ふか化した後すぐにエサを捕れない可能性があります。
そのため,卵黄をたっぷり含んだ大きめの卵を生むことで,しばらくの間生き延びることができます。
しかし,母魚が蓄えられる栄養と卵巣のスペースは限られ ているため,産卵数は減ります。
逆に,高い水温下ではプランクトンが豊富にいるため,卵黄の含有量が少ない小さな卵をたくさん産むように なります。
このとき,サイズが小さいと他の魚による捕食の危険性が高まりますが,産卵数を多くすることで,卵や稚魚の時期に大量に捕食される影響を小さく しているのです。
実際,体重20 g のカタクチイワシは水温15℃のときには約4000 個,25℃では約10,000 個の卵を産み,水温が7℃上昇すると卵のサイズが20%程度小さくなることがわかっています。
年間35 万トンと,日本第3 位の漁獲量を誇るカタクチイワシ。
年ごとの変動が少なく,いつも安定した量が私たちの食卓に届けられる裏には,お母さんのたっぷり注がれた愛情と工夫があったのですね。