海は知らないことばかり。挑戦しつづけるのみ! 竹内俊郎
「海は広くて、無限の可能性を秘めている。そして、分からないことはまだまだたくさんある」と、話すのは東京海洋大学の竹内俊郎さん。
研究者としてのブレークスルーは、ヒラメの摂食行動を観察していたときにあった。
さかなとタウリンとネコ
竹内さんは,栄養飼料の研究者だ。栄養学的に餌をどう改善すれば魚がきちんと育つのだろうか。
日々そんなことを考えながらヒラメの摂食行動を観察していたとき、人工配合飼料ではなくオキアミばかり食べていることに気づいた。
さっそく、オキアミを含むエサと含まないエサを与えると、前者のほうがより成長を促し、飼料効率を改善することが分かった。
そこで、竹内さんはオキアミの成分に大量に含まれている「タウリン」に注目した。
タウリンの有無によるヒラメの稚魚の成長速度や摂食行動の違いなどから、海水魚の運動機能と浸透圧調節に深く関与していることが明らかになった。
「淡水魚は自分でタウリンを合成できるが、海水魚はそれができない。だから、オキアミなどのエサを通して摂取することが必要だったんです。
でも、当時の栄養飼料は淡水魚をベースに研究されていて、タウリンは必要ないと考えられていてね。私の研究成果はなかなか認められなかったんだよ」。
3年後、その研究成果がやっと認められるようになり、今では海水魚の低魚粉配合飼料にはかならず含まれるようになった。実は、ネコもタウリンを作れない。ネコがネズミや魚を好んで食べるのは、彼らが持つタウリンを摂取するためだと考えられている。栄養飼料の研究が意外な発見につながっていたのだ。
養殖との出会いは宇宙にあり
竹内さんが養殖システムと出会ったのは、宇宙ステーション日本実験棟で魚の研究をしないかと誘われた15年前のことだった。宇宙実験施設という特殊な環境下では、完全に密封された空間の中に循環式の養殖システムを作ることが必要。
そこで竹内さんは、二酸化炭素や酸素を循環させるだけでなく、餌を摂取した魚が排出する老廃物をろ過して餌に再利用する画期的な完全閉鎖型循環システムを作りだしたのだ。これをきっかけに、このシステムを陸上養殖に活かせないだろうかと考えた。養殖には、場所だけではなく、餌や水質浄化など環境条件を一定に保つためのコストが大きく影響する。
このシステムを活用出来れば、養殖に関するたくさんの問題を解決できるだろう。通常、水産養殖学の研究者は地上での研究を行うのだが、竹内さんの場合は宇宙から逆に地上に舞い降りたようだ。今はフグやティラピアを使いながら循環養殖システムの改良を行っている。宇宙での研究開発が、陸上養殖に新たな突破口を与えることが期待できる。
日本から世界へ、海の可能性を切り開く
四方海に囲まれた日本では魚を食べる習慣が古くからあり、また漁業も盛んに行われてきた。養殖に関する研究も近年増えつつあり、日本が世界に誇れる技術も多い。これまで、世界中17か国から40人もの研究者や学生が、竹内さんの研究に魅力を感じ一緒に研究をしてきた。
「現在、孵化したばかりのクロマグロの稚魚や伊勢エビの幼生をどのように育てていくかの研究にも取り組んでいます。栄養飼料と循環養殖システムを掛け合わせて、私ならではの挑戦をしていきたい」。そう、笑顔で答えてくれた。
竹内俊郎
- 東京海洋大学 海洋科学部 海洋生物資源学科 教授
- 2003年より現職、閉鎖循環式養殖システムの開発及び種苗生産における生物餌料の改善