未来へ向けてまっすぐ進む
自分の使命や夢に向かって突き進むとき、おのずと道は拓けていく。タンザニア出身のティバさんとフィリピン出身のマリタさんが、遠く日本まで来て研究をするモチベーションは何なのだろうか。現在東京農業大学の大学院に在籍しながら、目標への一歩一歩を着実に歩む、2人の日本での研究生活を紹介する。
Tibanyendela Naswiru Twahiri さん(上)& Marita S.Pinili さん(下)
東京農業大学大学院農学研究科国際農業開発学専攻 熱帯作物保護学研究室
母国の人たちを飢餓から救いたい
Tibanyendela Naswiru Twahiri(以降、ティバ)さんは、タンザニア出身。現在、東京農業大学で植物病理学の勉強をしている。なぜ、彼はアフリカから遠い日本へ来たのだろう。その答えは、両国の食生活を支える食糧─お米だ。「アフリカは経済的にも食糧的にも貧しい。実に切実な2つの問題を抱えています。」ティバさんは日本へ留学した経緯を静かに、しかし力強く話し始めた。2012年に国連が出したThe Millennium Development Goals Reportによると、約30%のアフリカ人は極限状態の飢餓に苦しみ、約50%は底辺の貧困生活を送っている。このように、多くのアフリカ人が日々の食糧をやっと確保している現状で、有望な主食となる稲作の安定性を図ることは非常に重要になってくる。しかし、そこにはハードルがあった。Rice yellow mottle diseaseはアフリカ大陸にみられる稲穂の病気だ。ウイルスが引き起こすこの植物病は、斑点と帯状の黄色い線を発症させ、開花時期や成長スピードを遅めたりする。ところが、アフリカにはこの病気に関する知識が不足している現状があり、タンザニア政府は日本国際協力機構(JICA)と提携して問題解決を担う人材の育成を後押ししている。ティバさんはその稲作支援プログラムの一環で日本へ来たのだ。現在、彼は国際農業開発学専攻でウイルスによる植物病の診断技術と知識を得るため研究に励む。「卒業後は、母国で農業に従事する人たちに病気の抑制方法や診断方法を教えたい」。物静かでおっとりとしたティバさんだが、その瞳の奥には強い使命感と深い愛国心がある。
好奇心が私を突き動かす
2001年から2009年まで、Marita S. Pinili(以下、マリタ)さんは植物病理に関する様々な研究プロジェクトに携わってきた。もっと専門性を高めたいと文部科学省の奨学生制度を通して応募した東京農業大学の大学院プログラムでは、ウイルス学を専攻する。母国のフィリピンでは主に菌や害虫による植物病の研究をしてきた彼女にとって、ウイスル学を勉強するのは学部生以来で、しかも大の苦手科目だったそうだ。「避けては通れない関門ですね。でも、チャレンジしたかった」と話すように、植物病理について包括的な知識をつけ、植物以外の生物について学ぶため、ウイスルの知識と分子生物学的な視点を身につけたかった。一見順調に見える彼女のキャリアだが、実はつまずいたこともある。学部を卒業した時、自分の知識が活かせる就職先を探していたが、そのチャンスは見当たらなかった。必要に迫られて就職した先は電気製品を扱う会社。その後、小学校で理科を教えたが、それも上手くいかなかった。「教職は向いていない、それが明確になってよかった」と、マリタさんは明るく振り返る。その後、恩師の紹介がきっかけで携わった研究助手のポジションが後のチャンスにつながった。博士課程を修了後は、日本で研究経験を積む予定だ。「いつかは有名な研究者と肩を並べて国際的なプロジェクトに携わりたい」。一歩一歩確実に研究者としての経験を積み重ねるマリタさん。無限の好奇心が彼女を突き動かす。
経歴も個性も全く異なるティバさんとマリタさんは、同じ研究室の屋根の下、切磋琢磨しながら研究を進めている。それぞれの夢を、農業分野における先進的研究が行われる日本でのキャリアが応援することだろう。彼らを異国での研究にまで突き動かした強い意思が、彼らを目的地まで導いている。(文 前田里美)