地球の声を聞く 海面下8,000m、巨大地震発生の現場を調査せよ!
東日本大震災から約1年が経過した2012年4月。地球深部探査船「ちきゅう」は、重要なミッションを達成するために宮城県沖へと旅立った。巨大地震発生のメカニズムを探るために、人類史上誰も到達したことのない海面下8,000mの地中まで掘削を進め、震源地の断層を採取するのだ。
知られざる巨大地震発生のメカニズム
調査を行う震源は大陸側の北米プレートと、その下に沈み込む太平洋プレートの境界にある。
年間数cmという速度で沈み込んでいく過程で、上下のプレートの境界部には固着領域と呼ばれる部分があり、そこの岩石にプレート運動のひずみがたまっていく。
その力に耐え切れなくなると岩石は崩壊し、断層として動き、地震を発生させる。これが海溝型地震と呼ばれる今回のような大震災を引き起こすメカニズムだ。
しかし、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の倉本真一さんは「海溝型地震について我々が知っていることはわずかです」と語る。
震源地は誰も到達することができないほどの深さにあり、現在知られているメカニズムは地震波の解析など間接的な情報から提唱されたもの。
固着領域にはどんな種類の岩石が含まれているのか、ひずみはどのように岩石に蓄積されていくのか……。
地震を起こす断層そのものに対する疑問をひとつひとつ解決していくことで詳細な地震メカニズムが見えてくる。
そのためには、実際に地震を引き起こした断層帯を採取、解析することが重要だ。
その重大な任務を与えられたのが、海面下約10,000mまでの掘削能力をもつ「ちきゅう」なのだ。
温かい断層こそが真犯人
目的の断層帯は海面下8,000m付近、成功すれば研究分野の掘削では世界最深記録となるほど地下深くに潜んでいる。
「ちきゅう」の船上代表 を務め、掘削技術の専門家であるJAMSTECの猿橋具和さんは、約1年をかけて、深海の高い圧力にも耐えられる特殊なドリルや海底カメラなどの準備を進め、綿密なシミュレーションを重ねた。
そして、今年4月に行われた掘削で、数多くの困難に直面しながらも断層帯の採取に成功したのだ。
しかし、手放しで喜ぶのはまだ早い。
採取した断層帯の全長は約1m。
その中に東日本大震災を引き起こした断層が含まれているとは、まだ断定できないのだ。
ここで重要となるのが断層の温度。
地震発生時にずれた断層面には摩擦熱が発生し、その熱は周囲の地層と比べて+0.001°C~0.1°Cというわずかな差として、地震発生からおよそ2年後ぐらいまでなら測定可能と予想されている。
この温度差を計測することが、断層を特定するカギとなる。
今年7月に行われた2度目の航海では、掘削孔(穴)に長期に渡って計測できる温度計を設置することにも成功した。
そして同年の秋以降には、掘削地点に無人探査機を送り込んで温度データを回収する予定だ。
今回のミッションは、「ちきゅう」プロジェクトが目指す成果への通過点に過ぎない。
宮城県沖以外の場所にも掘削した孔(穴)にセンサーを設置し、ひずみの大きさや温度のデータなどをリアルタイムで計測、監視することが最終目的だ。
詳細な解析が行われることで「将来は精度の高い地震予知が可能になるかもしれません」と倉本さんは語る。そんな未来の実現は、「ちきゅう」の活躍にかかっている。