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解き明かされていく生命のパズル 西澤幹雄

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立命館大学 生命科学部 生命医科学科 西澤幹雄教授

20世紀末、世界中の研究者が総出で取り組んだ、ヒトの全DNAを解読する「ヒトゲノムプロジェクト」。達成後は、DNAから転写されているRNAすべてを解析するトランスクリプトーム(全転写物)解析の研究が後を追いました。その中から見つかった、タンパク質に翻訳されない無数のRNA断片。ここに生命の新たな謎が隠されていたのです。

そのタンパク質、いつ必要ですか?

立命館大学  生命科学部 生命医科学科 西澤幹雄教授
立命館大学 生命科学部 生命医科学科 西澤幹雄教授

DNAに刻まれた遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、暗号が読み解かれてタンパク質が合成される。
教科書に必ず載っている、生命の根幹をなすしくみですが、そこには描ききれていない視点がまだまだあります。
たとえば、「いつタンパク質がつくられるのか」ということ。
西澤先生の研究対象であるiNOSと呼ばれる酵素も、つくられる時期が厳密に制御されているもののひとつでした。
その役割は、細菌やウイルスに対する毒として働く一酸化窒素(NO)を合成することです。
NOは、外敵を攻撃するとともに、自分の細胞も傷つけてしまうため、普段はつくられず、感染したときにだけ、すばやく合成される必要があります。
この制御を行っていたのが、mRNAと対になる配列を持った「アンチセンスRNA」でした。

合成を制御する、対となるRNA

薬物や機能性食品の効能の研究をする中で、あるとき頭痛薬アスピリンの薬効成分であるサリチル酸を細胞に投与すると、NOの合成が抑えられることに気が付きました。
原因を調べてみると、NOを合成するiNOSのmRNAが分解されていたのです。
さらに調べると、mRNAの末端部分が安定性に重要であることが分かってきました。
そこには、どんなしくみがあるのだろうか。
考え続ける中で、当時話題だったトランスクリプトーム解析で見つかった謎のRNA断片を思い出し、「この部分と対になって安定化させるRNAがあるのではないか」と閃いたのです。
探索の結果、予想は的中していました。
iNOSのmRNA末端部分に結合するアンチセンスRNAが見つかったのです。
そして、その結合が特殊なタンパク質を呼び寄せることでmRNAを分解から守っていることを突き止めました。

自分の発見が、生命を解き明かすピースになる

iNOSのmRNAは、アンチセンスRNAが結合することで分解を免れ、繰り返し利用されるようになります。
これにより、通常はほとんど合成していないNOを感染時にだけ素早く大量に合成し、外敵に対処していたのです。
この安定化のしくみは、世界にさきがける発見でした。
「この発見は、他の遺伝子の働きにもかかわる、非常に大きな意味を持つかもしれません。自分の実験が世界初の証明になるかもしれない。そのわくわく感こそが研究の魅力です」。
最近ではアンチセンスRNAが、mRNAを不安定化させるという例も見つかっており、他にもまだ知られざる機能がありそうです。

世界初を追い求めることが研究者の仕事。そのおもしろさに魅せられた西澤先生の探求は、とどまることを知りません。

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