快適を目指して〜男性は暑がり、女性は寒がり?〜 加藤信介

快適を目指して〜男性は暑がり、女性は寒がり?〜 加藤信介

みなさんは快適に過ごしていますか?暑すぎたり寒すぎたり、イヤなにおいや騒音に悩まされるのは嫌ですよね。東京大学の加藤信介先生は、重要な生活空間である家やオフィスなどの建築物で、より快適に過ごすための研究をしています。

快適のカギは37℃と33.6℃

東京大学 生産技術研究所人間・社会系教授 加藤 信介

東京大学 生産技術研究所人間・社会系教授 加藤 信介

人は一日に約2000kcalを消費すると言われています。
このカロリーの多くを人は皮膚から熱として捨てています。
つまり、人は「発熱体」であり、その発熱量は100Wの電球に匹敵します。
発熱するのは酵素などを介して行われる代謝活動を円滑に行うためで、その結果、体温は約37℃に保たれています。
一方で、人が快適だと感じるのは皮膚の表面温度が約33.6℃のときと言われています。
これは発生した熱が皮膚まで伝わるために,人体内部より皮膚表面が低い温度であることが必要なことから決まっています。
この体温と皮膚の温度の双方が適正であることが人体にとって大切であり、熱の生産と放散によってバランスが取られています。
「快適」を目指すとき、この37℃と33.6℃が目印となります。

男性は暑がり、女性は寒がりということはない

意外なことに、皮膚の温度が33.6℃のときに快適というのは、男女や人種を問わず共通です。
周囲の温度が高くなりすぎると汗を出し、水分が蒸発するときに熱が奪われるという性質を利用して皮膚の温度を下げています。
逆に皮膚の温度が下がりすぎると、身震いをすることによって発熱し、33.6℃になるよう調整されています。
室温を快適と感じるかどうかは、皮膚の温度調整がどれほど必要なのかと言い換えることができます。
そこで着衣がひとつのポイントになってきます。
会社や学校で男性は暑がり、女性は寒がるという声を聞きます。
それは男性のほうが発熱量が多い割に着衣量が多く、熱を放出しづらくなっているためと考えられます。
特に足元に関し、男性は靴下を履くことが多く、女性は裸足に近い状態であることも大きな違いであるといえます。

 発熱体であること、それを利用して快適になろう

人が発熱体であることにもう少し注目してみましょう。
からだから発する熱により、周りの空気が温められ、上昇気流ができます。
そのため、人は「顔よりも下にある空気」を吸っていることになります。
もう少し言うと、自分の胸部付近の空気を吸っています。
よって、胸部付近の空気がキレイだと、人は快適を感じることができます。
シックハウス症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
部屋の塗料や殺虫剤の成分などによって引き起こされる体調不良の呼び名ですが、空気中の目に見えない化学物質が原因です。
そこで「パーソナル空調」というものを考えました。
現在のエアコンは部屋全体の空調を調節していますが、ひとりひとりの机に空調をセットし、胸部周辺の空気をキレイに保つ方法です。
これによって常に快適な空気を吸うことができるようになるでしょう。
もっとも身近でありながら、なかなか気が付かない「空気」を相手にする環境工学という分野、みなさんも挑戦してみませんか。

東京大学生産技術研究所人間・社会系教授

加藤 信介