夢を叶えたプラモ少年 平本 隆

夢を叶えたプラモ少年 平本 隆

少年時代からプラモデルをつくるのが大好きで、今でも自宅には、まだ組み立てていないプラモの箱が積み重なっている。
自分がつくった航空機が、いつか空を飛ぶことができたら…
考える人は多くても、なかなか実現できなさそうな夢。平本先生は、それを叶えた。

自分がつくった飛行機が、空を飛んだ!

初めて尾翼の設計に 携わった練習機 XT-4。

初めて尾翼の設計に 携わった練習機 XT-4。

飛行機を設計して空を飛ばせたいという夢に向かい、迷いなく歩みを進めた平本先生。
東京大学工学部の航空宇宙工学科へと進学し、卒業後は富士重工業株式会社の航空宇宙部門に就職した。
初めて設計に携わったのは、「XT-4」という名の訓練機。
航空機の設計には、大きく分けて空力設計、構造設計の2つがある。
空力設計とは、航空機のかたちや翼の大きさを決めるというような、全体的な形状をデザインし、その航空機に求められる性能を決定する設計だ。
もう一方の構造設計では、空力設計によって決められたデザイン、性能を実現するために、材料や細かい形状、骨組みの通し方などを詳細な図面に落とし込む。
XT-4で平本先生が担当したのは、飛行機の後方で垂直に立っている尾翼の構造設計だった。
そのとき、テニスラケットなどにも使われる軽くて丈夫な「繊維強化プラスチック」という素材を初めて飛行機に使用する設計を行った。

「少年時代の夢の第一歩が叶いました。

当時は独身でしたが、いずれ子どもができたら『俺はこの飛行機のこの部分を設計したんだ!』と言いたいと思っていました」。平本先生は、満面の笑みでそう話してくれた。

安全・安心な空の旅を目指して

次に担当した「XOH-1」というヘリコプターでは、後部胴体などの構造設計を行った。
そこから平本先生は、ヘリコプター設計の道へと進み、特に故障や事故が起きないよう、安全設計に着目していく。
ヘリコプターを長期間、安全に運用し続けるためには、多少ぶつかっても壊れない丈夫な構造、故障箇所を早期に発見するための基礎的な研究、それに、人間のミスを少なくするための工夫も必要になる。
帝京大学理工学部航空宇宙工学科に2010年4月から新設されたヘリコプターパイロット養成コースの授業でも、安全な飛行を中心的なテーマと考えている。
飛んでいて危険な状況がどのような原因で生じるのか、シミュレーションで体験する。
操縦が難しくなる理由を学術的に突き詰めることで、安全な飛行を身につけるのだ。

ヘリコプターは、ローターと呼ばれる羽根を回すことで風を下に送り、飛んでいる。
そのため、気温が低く空気密度が高いと、飛ぶための力を得やすくなる。
そういう状況から高温で密度が小さい場所にいくと、突然高度を保てなくなることがある。
「重量のセッティングを間違えた場合、機体を支えきれずに森の中に落ちてしまった事例もあります」。
これを守れば絶対に安全、というような完璧な理論などなく、ひとつひとつの部品設計と、操縦時の注意の積み重ねが安全をつくるのだ。

そしてもうひとつ、平本先生が授業でやりたいことがある。
それは、構造設計をして小さな部品をつくり、さらに自分で壊すことで、思い通りの性能を持つかどうかを調べるということ。
自分自身が富士重工業に就職してから体験してきたことで、「数式を使って計算をするだけでなく、ものをつくって壊すことをくり返すことによって、設計法が身に付くと思うのです」。
そうして得た経験は、ヘリコプターだけでなく、ものづくりすべてに通用するはずだ。

夢は事故ゼロ運用

「今の夢は、ヘリコプター事故をゼロにすることです」。
そう語る平本先生の顔に笑みはなく、真剣そのもの。
「これからドクターヘリなど、救難救助で活躍する場面が増えていくでしょう。
そのようなミッションを持ったヘリは、事故ゼロでなくてはならないのです」。
そのために構造だけでなく、人的要因や気象の問題も含めて、安全のための研究を深めていきたいという。
2016年までに事故を8割減らすことを目標として掲げる、国際ヘリコプター安全チーム(InternationalHelicopterSafetyTeam;IHST)は、設計、運行、気象、計器、整備の方法、パイロット教育などさまざまな観点で改善を行い、事故を減らそうというものだ。
「その活動に、学生と一緒に参加できたらおもしろいですね」。
日本でのヘリコプター事故は年に5~6件。
国際的に見れば少ない方だが、それでもゼロではない。
アメリカなどでの事故例と併せて研究を行うことで、その数を減らしていければ、と平本先生は言う。

少年の頃の夢よ、再び

「医学部があるこの大学で、ドクターヘリの運行についての研究もしたいと思っています」。
現状のドクターヘリは専用の設計があるわけではなく、一般的なものの内装を変えているだけなのだという。
「振動や騒音を抑えるローター、医師と看護師が動きやすくなる配置など、考える余地はあると思います。
究極的には、ドクターヘリ専用の設計を提案できたらいいですね」。
少年の頃から抱き続けた、自分が設計したものが空を飛ぶという夢。
それを、この航空宇宙工学科でまた新しいかたちで実現しようとしている。
「それと、いずれは自分自身も空を飛びたいですね」。
そう言って見せた表情は、また少年のような笑顔だった。

平本 隆 ひらもと たかし

1980 年 3 月 、東京大学工学部航空宇宙工 学科を卒業。同年 4 月に、富士重工業(株) に入社。航空宇宙の分野で、航空機構造設 計、ヘリコプター設計等に携わる。中等練習 機 XT-4、観測ヘリコプター XOH-1 の開発に も参加。2010 年 4 月より現職。