バーチャルでリアルを彩る 柴田 史久

バーチャルでリアルを彩る 柴田 史久

すでに日本での人口普及率が100%を超え,生活必需品となった携帯電話。
この誰もがからだの一部のように持ち歩く一番身近なコンピュータには,私たちの世界を今よりももっと便利で楽しく変える可能性が秘められているのです。

現実世界+仮想世界

情報理工学部 情報コミュニケーション学科 柴田 史久 准教授

情報理工学部 情報コミュニケーション学科 
柴田 史久 准教授

現実かと間違えるほどの臨場感を持った映画やゲーム,テーマパークのアトラクションなど,バーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR,人工現実感)を使った視覚的,聴覚的な疑似体験をしたことのある人は多いでしょう。
現実にはない,もしくは見えない世界を,コンピュータを使って表現するVRは,エンターテイメントだけでなく,医療,都市計画の分野などで多く活用されています。

しかし,これらはあくまで現実とは独立してつくり出された世界。
VRで磨かれた仮想世界が,もし現実世界とつながるとどうでしょう。
医療の現場では,特殊なゴーグルを使い,人の目にはわからない検査の情報を患者の体内に重ねながらメスを入れることができます。
コンピュータグラフィックスで家具を描けば,重い机やベッドを何度も移動させる模様替えもなくなるでしょう。
このような現実世界と仮想世界の継ぎ目なき融合を目指す技術が,複合現実感(Mixed Reality:MR)です。 

2つの世界をつなぐ

MRでは現実世界のどこに仮想世界を表現するかが重要になります。
たとえば,四角い枠の中に+という記号を描いたもの(マーカと呼ぶ)があれば,決まったグラフィックスを映し出すこともできます。
しかし,それでは私たちの身の回りは記号だらけになってしまうでしょう。
そこで,柴田先生は,現実世界の特徴を分析し,それらの位置関係を活用する手法を研究しています。
建物内を歩いていると,窓や扉,長椅子があり,廊下には模様があります。
その位置関係を空間全体としてとらえ,「どこに何がどのような向きで存在する」というデータを予めサーバに蓄積しておきます。
そうすれば,私たちが携帯電話で周囲を写すだけで,そこに写った窓や扉などの位置関係とサーバにある情報を照らし合わせ,自分がどこにどの向きで立っているかがわかるようになります。
結果,実際には存在しない“仮想の案内板”を表示することも可能になるのです。 

モバイルが加速する足し算

携帯電話が普及しはじめた頃,「ユーザに近い所にあるデバイスなので,いろいろなサポートができる」とモバイル端末を使った研究をはじめた先生。
しかし,一口に携帯電話といってもさまざまな機種があり,しかもそれらは日々アップデートされます。
だからこそ,携帯電話での処理をなるべく簡略化し,データの蓄積や主なデータ処理をサーバで実行するシステム・アーキテクチャを設計しました。
たとえ携帯電話のシステムが変わっても,処理の中身は変わらず,送受信するデータの形式のみを変更すればよいのです。

スマートフォンを片手に,「現実に仮想が加わることによって,より情報がわかりやすくなったり,便利になったりする」と語る先生。現実と仮想の足し算が,私たちの生活をスマートに彩ろうとしています。