地道な作業が社会を支える 上野明
理工学部 機械工学科 上野明 教授
運動会や部活で運動をしたあと,からだに疲れがたまってうまく動けなくなることがあります。じつは,身の回りにある金属も,酷使すると「疲労」がたまっていきます。場合によっては大事故にもつながるため,安全なものづくりのために重要な課題となっているのです。
金属だって,疲れます
見た目には何の変化も起こっていないように見える金属ですが,使用を重ね,圧力がかかったり,ねじれたりするうちに,少しずつ原子の配列が崩れ,小さなひび割れが現れてきます。最初は,顕微鏡でも見えないくらいの大きさですが,そのまま使用を続けていくと,ひび割れが大きくなり,数も増え,最終的には部品の断裂が起こってしまいます。
これが大きな問題になるのは,航空機や自動車などの乗り物が対象のとき。事故原因の7割程度を占めるともいわれます。上野先生の研究では,さまざまな金属の疲労について実験データを取ること。その結果から,製品をつくるときにどんな材料が適しているか,設計者に提案することもできます。
いじめ抜いて1000万回
これまで,乗り物には鉄が使われることが多かったため,疲労の研究も,鉄を中心に行われてきました。最近は軽くて強いアルミニウムや,複数の金属を混合した新しい合金が材料の主流になりつつありますが,鉄と違い,これらの疲労研究は始まったばかりだといっても過言ではありません。新しい材料が次々と使われだす中,使い方や使う環境によっても疲労の蓄積具合,壊れ方が異なるため,安全性を評価するためには,データを集めて分析し,特徴を把握することが必要です。
そんな目には見えないダメージについて調べるため,上野先生の研究室には,さまざまな測定機器がところ狭しと並んでいます。その機械で金属サンプルに「ひっぱる」「曲げる」といった力を1000万回もくり返しかけることで疲労を蓄積させ,顕微鏡でひび割れを確認します。そうして耐久力やできたひび割れの成長具合などを調べることで,その材料の強さを評価しています。こういった研究を元に,製品に最適な素材が選ばれたり,使用期限が設けられたりしていくのです。
社会につながる大事な仕事
金属片を見つめ,くり返し試験をしながら基礎データを蓄積していくことは,一見地味な作業かもしれません。「時間がかかるけれど,誰かがやらないといけない大事な仕事なんだと,学生のときに気づきました。この研究がなければ,安全に使える乗り物や機械をつくることはできないのです」。それ以来,上野先生は金属疲労の研究一筋。出した論文を読んで声をかけてくれた企業とも協力しながら,一歩一歩,地道に研究を進め,安全な世の中をつくっていきます。