新しいコンセプトで世の中に薬を届ける

新しいコンセプトで世の中に薬を届ける
薬学部 薬学科 藤田卓也 教授

現在までに開発された医薬品の成分は3000種類以上といわれますが,そのほとんどが膨大な費用と時間をかけた研究開発の結果,やっとみなさんの手元に届いています。藤田先生は「薬剤の吸収されやすさ」に注目することで,その開発を効率化しようと研究を進めています。

藤田先生

長い,薬開発の道のり

薬を開発するときには,まず病気に関連したタンパク質や遺伝子など,薬を作用させるターゲットを決めます。その後,100万種類以上もある化合物のなかから候補を選び,培養細胞や実験動物を使って,薬としての効能,副作用の有無などさまざまな試験をくり返すのです。効き目があるものが見つかれば,今度はヒトに投与することで,からだへの吸収率や体内分布,働き,最適な投与量や期間などを調べるための臨床試験に移ります。
もし培養細胞や動物を使った実験でよく効く化合物が見つかったとしても,ヒトが飲んだときに体内に吸収されないようでは,薬としては意味がありません。多くの人が関わり,大きなコストがかかる臨床試験に入る前に,どれだけ効率よく「使える化合物」を見分けるか,そこが大きなポイントとなります。

飲んだあと,薬はどうなる?

では,どうすればより効率よく薬の開発を進めることができるでしょう。藤田先生は「腸管からの吸収されやすさ」を指標にした研究を進めています。
重ねられた2つのカップ。上のカップの底は膜になっており,Caco-2というヒト結腸癌由来の細胞を培養して,膜状に腸管を再現します。ある化合物を上から加えたとき,膜の下まで透過することができれば,Caco-2の働きで体内に吸収されることを,逆に透過しなければ,薬として飲んでも腸管から体内には吸収されないことを意味します。
臨床試験に進む前の早い段階から体内への吸収されやすさを調べることで,薬の有効性を判断し,新薬開発の効率化が実現できます。さらに,カップから細い管状に変えることで,より腸管での現象に近づける工夫も進めています。

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大切なのは,コンセプト

新しい薬をつくることで,病気などで苦しむ人たちの役に立ちたい。それは,薬に携わる多くの人の想いであり,大学の研究者も企業の研究者も同じでしょう。しかし,「基本的には,大学で薬を開発することはできません」と藤田先生は言います。大学の研究室では,扱える薬や化合物にも限りがあり,費用と人員も企業より小規模になるからです。しかし,大学の研究者だからこそできることもあるのです。「製薬会社が薬をつくる,その大元となるコンセプトを提示すること,それが私たちの役目です」。
藤田先生が腸管からの吸収を指標にするように,大学の研究者がコンセプトを生み,それを元にして企業が一気に研究を押し進める。その連携が図れたとき,より効率よく,より効果の高い薬の開発へと近づいていくのかもしれません。