飛行時間、18,200 時間 畝本 宜尹

飛行時間、18,200 時間 畝本 宜尹

大学の文学部を卒業後、農林水産航空協会のヘリパイロット訓練生(後の航空大学別科)に。
その後40年以上、ヘリコプター、そして旅客機のパイロット一筋だった。
「他の先生とまったく違う経歴でしょ」。
元機長は、笑いながら話をしてくれた。

元機長、教授になる

畝本 宜尹 うねもと のぶまさ大学4年生になって就職を考える頃、初めてパイロットという道を考えた。
父親は自衛隊から東京消防庁へ移り、航空隊の初代隊長を務めたパイロット。
子どもの頃には父親の当直業務の際にヘリコプターを見に行って、ここをこう動かしたら飛ぶんだ、と教えてもらうこともあった。
「その環境が頭の中にあったんでしょうね」。
当時ヘリコプター部門があった全日空に就職した。
その頃の仕事は、農薬散布や植林のための種子散布、電線パトロール、そして報道取材などさまざまだったが、中でも報道取材が多かったという。
「1972年6月、熊本の大洋デパートで火災が起きた。
たまたま福岡にいたら緊急電話があってね、すぐ熊本に向かえ、と。
飛んだら目の前に黒煙が見えて、阿蘇山が噴火したかと思いました」。
各社からの報道ヘリがよいポジションを取ろうと入り乱れて飛ぶ光景。
「事故の悲惨さも含めて、一番インパクトがありましたね」。
その後1974年、会社がヘリコプター部門を廃止することを決めると同時に、旅客機部門へ異動した。
「飛行機はヘリコプターと運航環境、飛び方がまったく違うけど、一生懸命勉強しました」。
機体の種類ごと、また路線ごとに 操縦資格を取らねばならない旅客機のパイロットとして、60歳まで勤め上げた。
その後アイベックスエアラインズ株式会社で国内線の機長を務め、65歳で退職するまでの総飛行時間は18,200時間
そしてベテラン機長は2010年3月、大学教授へと転身した。

理屈だけではないパイロットの世界

飛行ルートに与える風の 影響を調べるためのフラ イトコンピューター。

飛行ルートに与える風の 影響を調べるためのフラ イトコンピューター。

「僕が訓練を受けたような民間のヘリパイロット養成組織は、最近はなくなっていたんです。
自衛隊に入るか、自費で免許を取るしか方 ひ法がない。
それを大学がやるっていうのに惹か れました。
飛ぶことに関しては40年以上やっていたから、話すネタはいっぱいあります。
ヘリパイロットになることの楽しさ、つらさ、厳しさを含めてどうやって教えてあげられるか、模索しながらやっていきたいですね」。
さらに、18歳からヘリコプターパイロットになるための訓練をできるのは、日本初だという。
「自衛隊でも20歳過ぎてからでしょう。
若いうちに、パイロットって何?というのを考える機会をつくりたいですね。
飛ぶことだけしか知らないのではなく、いろいろなことを知ってほしい」。
そう話す畝本先生が考える、よきパイロットの資質は「ひと言でいうとバランス」だという。
「専門分野に関する理論的な裏付けの他に、落語を聞いてもいいし、まったく違う話をしてもいい、偏らない判断をするためにバランスよくいろいろなことを経験しているといいですね。
お客様の立場を想像して、思いやりや協調性を持てるかどうかなんです」。
たとえば、ヘリコプターパイロット時代、カメラマンを乗せたときには、自分もカメラマンになったつもりでファインダー越しに見える景色を想像していた。
「こう旋回したら視界から外れるな、とか意識をして操縦していました」。
他にも飛行機の機長をしていたときには、気象や航路に関する情報をどういうタイミングで話せば乗客が安心できるかを考えていた。
パイロットとして何が求められるのか、「理屈だけじゃない世界の話もできればと思います」。

畝本 宜尹 うねもと のぶまさ 1969 年にパイロット訓練開始し、1970 年、全日本空輸(株) (ANA)に入社。ヘリコプター部に配属となり、NHK を中 心に報道取材飛行に従事。1974 年、旅客機部門に転出。以 後、各機の操縦資格を取得。2005 年よりアイベックスエア ラインズ(株)を経て、2010 年 3 月より現職。

畝本 宜尹 うねもと のぶまさ
1969 年にパイロット訓練開始し、1970 年、全日本空輸(株) (ANA)に入社。ヘリコプター部に配属となり、NHK を中 心に報道取材飛行に従事。1974 年、旅客機部門に転出。以 後、各機の操縦資格を取得。2005 年よりアイベックスエア
ラインズ(株)を経て、2010 年 3 月より現職。

自らの経験をすべて伝えたい

授業では、実践的なヘリコプター操縦のための座学を担当する。
ヘリコプターの飛行力学やフライトコンピューターの使用法を学ぶ航空操縦学入門などがある。
「フライトコンピューターっていっても、いわゆる普通のコンピューターじゃなくて、計算盤です」。
長方形と円が組み合わさったようなプラスチック板に細かくマス目が刻まれており、速度や到着予定時間、風による進路への影響などを簡単に計算することができる。
原始的な方法のようにも思えるが、電気がなくても動き、故障の心配もないため、航空業界で今でも使われているものだ。
また、自身の実践経験も踏まえたうえで操縦法を教えていく予定だ。
ヘリコプターはローターの回転面全体を傾けることで前後左右に、ローターブレードの角度を変えることで上下に移動し、尾翼にあるテールローターの角度調整でホバリ ング中の機首方向を変える。
「ヘリを操縦するにあたって、航空力学も理解したうえで操縦桿の使い方を知ってもらいたいですね」。
他にも、操縦練習をするために必要な航空特殊無線の免許取得のための講義や航空英語、航空管制、航法など、コースに入った学生が学ぶことは数多い。
実際にヘリコプターに乗り始めるのは、1年生の9月からだ。
「そうしたら、座学以上に理解が進むでしょう。
僕の場合、40年以上空を飛んでいた経験しか伝えられるものがないけど、いろいろな刺激を与えられればと思います」。
今、ヘリコプター業界では若い人材が求められているのだという。
活躍できるパイロットになるために、空を飛ぶプロから学べることがたくさんあるはずだ。
畝本先生と見る上空の世界は、いったいどんなものだろう。