琵琶湖流域モデルが国際的水問題解決のカギになる

琵琶湖流域モデルが国際的水問題解決のカギになる
理工学部 環境システム工学科 佐藤圭輔 講師

私たちの生活には欠かせない水。海の水が蒸発して雲となり、大陸に移動して冷やされると雨として地上に降り注ぎ、そして川となって海へと流れていく……。その循環も多くの国が隣り合う大陸では、複雑な問題へと発展していきます。佐藤先生は、河川や湖沼流域の評価やモデルづくりを行うことで、地球規模での流域評価に取り組んでいます。

佐藤先生

国際河川が抱える問題

「社会の営みが、その河川にどういう影響を与えるか、そして、下流の国や湖沼にどんな変化をもたらすのか。それがイメージできるデータベースをつくりたいと思っています」。いくつもの国をまたがって流れる国際河川の場合、日本では考えられないような問題が数多く発生しています。たとえば、ダムの管理ひとつをとってみても、上流国の事情で放水すれば、その下流域に大きな洪水被害を生じさせる可能性があるのです。佐藤先生が研究対象のひとつとしているメコン川は、チベット高原に水源を有し、中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを抜けて海へと流れ出ています。適切な流域管理を行うためには、それぞれの国の事情に左右されない、中立的で科学的な評価を下すことが必要と考えています。

基本となるのは琵琶湖流域

世界規模でのデータベースと評価系の構築に向けて、現地で進める情報収集と並行して、その基本的なかたちをつくり上げるために取り組んでいるのが、琵琶湖流域を対象としたモデルづくりです。材料とするのはレーダー観測による気象データや社会基盤データと、自分の足で集めた現地の情報。まず、流域の標高、河川流量や降水量の情報を元にして、上流河川から流れ込んだ物質が琵琶湖を抜けて下流に広がる様子を計算で導きます。さらに各河川で10日間〜1か月間、1時間ごとにサンプリングを行って細かな水質の変動を分析し、モデルとの整合性を分析するのです。「これまでの調査結果と、すでにできているデータベースを合わせることで、1年以内に琵琶湖流域の物質の流れをシミュレーションできるシステムをつくりたいですね」。その先に見ているのは、メコン川などの国際河川。日本で確かな技術を磨き、アジア、世界への展開を目指します。

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今を生きる我々の責任

「今起きていること、たとえば大災害や自然現象は、今を生きる我々が学び、調べ、後生に継承していかなければならないのです。今やらなければ、いずれ風化してしまい、そこから学ぶことすらできなくなってしまう」。そう学生に伝える佐藤先生は、実際に現地に赴くことで「体感」することを最も重要な経験とし、海外を含む遠方調査の際には、いつも学生を連れて行っているそうです。
研究室で生み出す新しい技術に、現地で知り得た「生の情報」を加えることで、本当の今と、確かな未来を導く。そういった地道な作業こそが、机上の空論に終わらず、これからの国際問題を一歩一歩ゆっくりと、しかしながら確実に切り開いていくカギとなるはずです。