コンピュータグラフィックス界の魔術師と呼ばれた男 五十嵐健夫
コンピュータをもっと使いやすくしたい。
その思いから数々の革新的アイデアでインタフェース革命を起こしてきた研究者がいる。
東京大学の五十嵐博士だ。
コンピュータグラフィックスを実に巧妙に用いたインタフェースを次々に開発してきたことから今ではコンピュータグラフィックス界の魔術師と呼ばれている。
人々を魅了して止まないその魔術をここでほんの少し紹介させて頂こう。
手書き絵を自動で3次元に
ペンタブレットやマウスでサササーっと絵を描く。
丸でも四角でもクマでも何の絵でもいい。
そうして描かれた絵が五十嵐博士の手にかかるとあら不思議、もわもわっと膨らんで、あっという間に3次元になる。
これは五十嵐博士のホームページ(http://www-ui.is.s.u-tokyo.ac.jp/~takeo/index-j.html)で実際に体験出来るので、是非とも体験してみて欲しい。
きっとあまりの凄さとあっけなさに笑ってしまうだろう。
どうしてこの様なことが出来るのだろうか。
そのアルゴリズムは、広々とした所はいっぱい膨らます、狭い所はあまり膨らまさないというものだ。
風船で例えるならば、絵を描いただけの状態は空気の入っていない平らな状態。
風船ならばそこに空気を吹き込むと3次元になる。
この、まさに風船が膨らむ様子を見事にコンピュータの中で再現したのだ。
手書き絵を自由自在に動かす
またまたサササーっと手書きで絵を描く。
さて、先ほどはあっという間に3次元になったが、今度は描いた絵をあっという間に自由自在に動かしてまるで生きているかの様に操ってみせてくれた。
これも五十嵐博士のホームページで体験できる。
「掴んで動かすことによって簡単にアニメーションを作成する。 」というコンセプトで作成されたこのプログラム、はたしてどの様なアルゴリズムなのか読者の皆様にも是非とも考えて頂きたい。
ヒントは、通常「動き」を表現するときには「力学」の概念を用いることが多いが、このプログラムは「幾何学」の概念を用いていること。
正解は、まず絵を小さい多数の三角形の集まりとして近似する。
そして、動かさない部分とつまむ部分を「ピン止め」する。
さて、ピン止めしたつまむ部分をつまんでひっぱる動作はつまり、そこにあった三角形を移動させることになる。
ピン止めされた部分にあった三角形を移動させた時、周りの三角形の位置関係を崩さずにいると当然周りの三角形が歪む。
この周りの三角形の歪みを最少になるように、そして、つまんで引っ張っていないピン止めした部分の三角形は動かさずに常に処理をすると、なめらかな「動き」が表現される。
このアルゴリズムによって驚くほどなめらかなアニメーションがあっという間に作成出来る。
「予想以上」のものが出来た時の嬉しさ
頭の中で、こういったアルゴリズムを用いればこんなことが実現出来るのではないか、と思い付いた瞬間それを実装して検証する。
そうして出来上がったものが頭の中で想像していたものよりも凄いものだった時、五十嵐博士はテンションが上がるという。
「予想通りのものが出来上がっても面白くない。 実際に作ってみたら予想以上のもの、期待以上のものが出来上がる、これが面白い。 」
最初に魔術にかかるのは五十嵐博士本人なのかもしれない。(鈴木孝洋)
五十嵐健夫
東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻 教授 科学技術振興機構
五十嵐デザインインタフェースプロジェクト プロジェクト総括