医者と研究者、2つの視点で難病に挑む 稲津哲也

医者と研究者、2つの視点で難病に挑む 稲津哲也

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薬学部 薬学科 稲津哲也 教授

「難病」という言葉を聞いたことがありますか?原因がわからず,治療方法も確立されていない病気のことで,専門医が少ないため,病名がわからないまま何年も検査を受け続ける人もいます。もともと医者として患者と関わってきた稲津先生は,いま研究者の立場から難病に挑みます。

稲津先生

なぜ?を追求し,研究の道へ

医師として診察を繰り返すうちに「なぜ,この症状が現れるのか」という,病気のメカニズムに興味が移っていった稲津先生は,改めて大学院に入学を決意。体内でのホルモンの作用メカニズムについて研究を行い,博士号を取得しました。
その後,医者と研究者という二足の草鞋を履き続けた生活は,徐々に研究の世界へとシフトしていきます。アメリカ国立衛生研究所への研究留学を経験し,帰国してからは病院の臨床研究部で室長に就任。そこで出会ったのが,早く老化してしまう「早老症」や骨格形成に異常を起こす「くる病」といった難病を抱えた患者たちでした。その原因を,探ろう。そう考えた先生の研究は,2009年に立命館大学に移り,今も続いています。

謎多き,疾患の源

難病の原因となるDNAの変異を探す。それは,膨大な数の砂粒の中から,たった一粒の砂金を探す作業に似ています。ヒトをかたち作るためのDNAの塩基数は,約30億。そのどこかにある病気の原因となる変異を見つけなければなりません。
いったいどれが病気につながるのか。さまざまな研究者が患者のDNAを調べ,これまで数多くの変異が報告されてきました。「それでも,目の前にいる患者さんから,すでに知られている変異が見つからないこともあるんです」。同じ病気の患者が,まったく異なるDNAの異常を原因に持つことも多いため,病気の種類がわかっても,原因となる変異がわかるとは限らないといいます。

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患者の想いを力に変えろ

稲津先生は今,患者から採取したサンプルを使い,2つの研究を進めようとしています。ひとつは難病患者と健常者のDNAを比較して原因を特定すること。世界中から研究成果が集まるデータベースも利用しながら,いくつも見つかる変異の中から疾患に関連しそうなものを探すのです。そしてもうひとつは,患者の細胞から人工多能性幹細胞(iPS)細胞をつくること。iPS化してシャーレの中で細胞を培養し,病態を再現することで,より詳細に病気のメカニズムを調べようと考えています。今はラットを使って,採取しやすい皮膚や血液の細胞からiPS細胞をつくる方法を探っている段階。「早く成功させたいですね。患者さんたちには,研究に協力してもらうための同意書も,すでにもらっているんです」。今まで数多くの病気を診て,患者さんの想いを知っているからこそ,研究への熱意もこもります。病院から研究室へ。その戦いの場は移っても,変わらぬ情熱で難病に挑み続けます。

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