小さな命を、世界を回す歯車に
立命館大学 生命科学部 生物工学科 久保 幹 教授
目には見えない小さな生き物,微生物。土1gの中に数億から数十億も存在するといわれ,これまでに発酵食品への利用や抗生物質の生産,汚染環境の浄化など様々なことに利用されてきました。この微生物の中から,有用な能力を持つものを探し出し,この日本の未来をつくろうとする研究者がいます。
一瞬でも,世界に必要とされよう
高校生の時に,学校で講演してくれた研究者の「自分の研究成果で,ほんの一瞬だけど世界を回した気がする」という言葉にあこがれて,自分も世界にインパクトを与えたいという想いを持った久保先生。食の安全・安心が注目される中,化学肥料の低減を目指して有機農法の見直しと効率化を考えました。「廃棄される大豆かすを肥料にしたいが,分解されて栄養になるまでに時間がかかる。もっと短時間でできないだろうか」。9年間の研究の末,大豆かすに含まれるタンパク質を,従来の150倍以上の速さで断片化して大豆ペプチドにする微生物を発見したのです。できたペプチドを植物に与えると,根毛が約4倍に増え,植物が2倍の大きさになりました。最初,農学研究者からはペプチドのままでなく,もっと分解を進めないとは根は吸収しないはず,と信じてもらえなかったといいます。しかし,成長しているという事実を重視し,学説に疑問を持って実験を積み重ねた結果,根がペプチドを吸収すること,根毛成長の生理活性があることを証明し,農学の常識を覆したのです。
だれにでも理解できる「土」を
よい土壌では,たくさんの微生物が上手く連携して働いています。そこで久保先生は,これまで明確な基準が無く,経験的に判断されていた「土の状態」を数値で表わすことにも挑戦しました。「開発された『SOFIX』という指標では,土の中の微生物活動を19の検査項目で評価します。微生物の総数,窒素循環や炭素循環に関わる働きなどを数値化することで,その土の肥沃度を総合的に評価できるんです」。この指標は自然界の物質循環に基づくオリジナルな土壌診断として,すでに導入を開始しています。
日本に必要なものを日本でつくる
「他国に頼らない日本を実現させたい。いうなれば鎖国ですね」。と笑う久保先生が次に注目しているのは,石油をつくり出すこと。「例えばアブラゼミやゴキブリなどは,体内に石油のような物質を持っています。つまり,それをつくる酵素があるのです」。その酵素を持つ微生物を見つける事ができれば,エネルギー生産の可能性が見えてきます。有用微生物を見つけ出し,活用することで,食料増産やエネルギー生産を実現し,何でも自給できる国を目指して研究を進めます。近い将来,久保先生の想いが実現し,研究成果が世の中を変える日が来るかもしれません。