原子を「見て」、化学反応のしくみを調べよう

原子を「見て」、化学反応のしくみを調べよう
生命科学部 応用化学科 稲田康宏 教授

「高校生の頃に教科書の化学式を見て,反応がなぜあんな風に進むんだろう,と疑問に思っていました」。その謎を解くため,稲田先生は自分で開発した機器を活用し,反応の前後で自身は変化せず,反応の速度を変化させる「触媒」の化学を追求しています。

稲田先生

X線で原子の位置を見る

これまで化学の世界では,反応前後の変化を比較することで,どのような反応が起こっているかを推測することしかできませんでした。稲田先生が開発を進めるXAFS(ザフス,X線吸収微細構造)と呼ばれる方法を使えば,触媒中にある原子の状態を,どのような状況下においても調べる事ができます。つまり,反応の最中にどのような変化が起こっているのか,その状態を観察することができるのです。まずサンプルに,様々な波長のX線を照射します。すると,そのエネルギーを吸収した電子が原子から飛び出し,近くにある別の原子にぶつかったり,元に戻ったりします。どの波長のX線がどれだけ吸収されたのかを示すグラフを解析することで,その瞬間の原子の位置を知ることができます。X線の吸収量は近くにどんな原子があるかによって決まるため,X線を吸収した原子周辺の原子の状態や配置がわかるのです。

コマ撮りで反応を追え

化学反応は一瞬で進むため,いかに短い時間でXAFSによる解析が行えるかが重要なポイントになります。装置に工夫を加え,プリズムに対応する分光器でX線を波長ごとにわけてから一度にサンプルに当てることで測定時間を短縮し,達成した世界最速の解析時間は100ピコ秒。10億分の1秒という瞬間ごとの様子をコマ撮りすることで,化学反応の際の原子の動きを見ることができます。
「この技術の発展を引っ張ってきた,という自負があります」という言葉に表れるように,1990年代前半から開発を始め,2003年には設備を他の研究グループに貸し出すまでの技術に確立しました。そして2009年からは立命館大学で,機器開発を続けながら,実際に触媒反応のメカニズムを原子レベルで調べる研究を始めています。

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「知りたい」気持ちが未来を創る

今後,反応のメカニズムを詳細に調べることで,より低コストで高効率,低環境負荷の触媒が実現できるかもしれません。「例えばこの金属は酸素原子を何秒かけて奪うとか,与えるとか,反応メカニズムに関する詳細な情報を集めれば,望みの特性を持つ触媒を設計できるようになるはずです。5年から10年をかけて,そのデータベースを作っていきたいですね」。疑問に思ったことを,深く深く調べ上げていく。それを徹底することが,まったく新しい技術を生み出す源になるのです。