味覚・嗅覚から「意識」に迫る!小早川達
風邪をひいた時に食べ物の味がしなくなった経験はないだろうか。
風邪をひいて味覚がおかしくなってしまったのだろうか。
実は、風邪を引いても味覚がダメージを受けることはそうはない。
風邪を引くと、鼻が詰まって匂いが分からなくなり、そのせいで食べ物の味がしなくなるのだ。
鼻をつまんで食べ物を食べても何を食べているのか分からないことと同じメカニズムである。
人の持つ五感で、味覚・嗅覚は実に不思議な関係にある。
他の視覚・聴覚・触覚ほど独立しているわけではなく、なかなか切り離すことが出来ない。
そして、味覚・嗅覚は他の五感に比べて分かっていないことが多い。
味覚受容体・嗅覚受容体がそれぞれ味物質・匂い物質を認識していることは1990年代に受容体遺伝子が発見されたことによって解明されたが、脳内でどの様な処理を経て、味・匂いを認識しているのかということについてはまったくの謎であった。
そんな中、産業技術総合研究所の小早川博士は味覚一次野を同定し、味覚・嗅覚の脳内処理の研究に新たな時代を到来させた。
人の脳は味というものをどの様にして味として認識しているのか。
今、小早川博士はこの問いの答えに迫っている。
味覚からの入力だけでも嗅覚からの入力だけでも味を認識することは出来ない。
脳内でそれぞれの入力を統合して、それを味として認識している。
その、味覚からの入力、嗅覚からの入力が統合される脳の領域、この領域が今、小早川博士の研究によって分かりかけている。
この領域に情報が届いた瞬間に味を認識しているのか、より高次の領域で味を認識しているのか。
更には「味覚」と「嗅覚」をどの様に「違うもの」として認識しているのか。
それが分かれば「意識」に迫れると小早川博士は言う。
認識するということ、これは「意識」の重要な機能の一つだ。
我々の脳は、日々何かに注意を向け、何かを認識している。
その、何かを認識した瞬間に働いていた脳の領域が「意識」にとって非常に重要であるということに着目した小早川博士は、味覚・嗅覚の独特な関係を利用してその脳の領域に迫る。 「味覚・嗅覚の研究は、いかに性能の良い計測機器を開発できるかが鍵。
視覚の研究の様に多くの機器が取り揃えられているわけではない。
味覚・嗅覚に関する計測をしたかったらそのための計測機器は自分で開発しなければならない。
しかし、そこが面白い所でもあり、そこが自分の得意とする部分でもある。
」今後も小早川博士の動向から目が離せない。