ミクロな世界に"手"が届く

ミクロな世界に"手"が届く

理工学部 機械工学科 小西 聡 教授

シリコンゴムでつくられた,小指の先ほどの小さな「手」。専用のグローブをはめて人が手を動かすことで,その小さな手の指を連動して動かすことができます。小西先生が進めている,この「マイクロハンド」の研究は,ミクロな世界を操り,医療分野に貢献する研究として注目されています。

konishi

体内での視界を開く小さな手

カメラを使って体内の映像を見ることができる「内視鏡」は,外からでは見えない場所の手術を行うことができる技術として,今や世界中の医療現場で使われています。しかし,体内で内臓が拍動するため,内臓に挟まれたり,はじかれたりしてしまい,うまく映像が撮れない場合があるという問題を抱えていました。その解決に向け注目されるのが,先生が開発したマイクロハンドです。小さく柔らかい指は,内視鏡の視野を確実に安全に確保することができます。きっと未来の医療に貢献することでしょう。

ミクロな世界のモノづくり

普通の大きさであれば,モータを使うことで,パーツが可動するようなロボットをつくることができます。しかし,マイクロハンドの指は長さ7mm,幅1mm,厚み0.1mmというごく小さいもの。そのような小さなパーツを動かすしくみとして先生が目をつけたのが圧力でした。指の中に髪の毛1本ほどの管を通し,関節部分には風船を付けます。その管に空気や水などを注入すると圧力で関節部分の風船が膨らみ,指を曲げることができるのです。
では,どうすればこのような構造をもつマイクロハンドをつくることができるのでしょうか。管は直径がたったの0.05mm。つくられた指の中に穴をあけ,風船を入れることはできません。そこで用いたのがLSI(集積回路)をつくる技術と同様の「薄い膜を積み重ねて立体をつくる」という方法です。手の形をしたシリコンゴムの薄い膜を最下層にし,次に,風船と管の部分のない別の膜を重ねます。その上から風船を埋め込み,最後に平らなゴムの膜でフタをします。そうして,内部に空洞のあるミクロな構造をつくり上げているのです。

fig-konishi

思考こそが研究の本質

ミクロな世界でのモノづくりでは,通常の手法が通用するとは限りません。これまでの常識にとらわれず,どうしたら目的の機能を効率的に実現できるのかを考えることがポイントになるのです。「私が常に学生に言っているのは,考えることの重要性です。最先端のモノづくり技術を使ってすごいことをするには,その前に目的と機能をじっくり考えてからスタートすることがとても重要なのです」。
先生は今も既存の枠にとらわれない発想で,ミクロな世界に手を伸ばし続けています。