ディスプレイの先に新薬を見つめて 藤田 典久

ディスプレイの先に新薬を見つめて 藤田 典久

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薬学部 薬学科 藤田典久 教授

これまでに世の中で使われている医薬品の多くは,偶然見つかったり,さまざまな化合物について薬効があるかどうか時間をかけてひとつひとつ調べたりすることで発見されたものです。今,その創薬研究が大きく変わりはじめています。

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コンピュータが加速する薬づくり

ある化合物が薬効を持っているのかどうかは,実際に細胞などを使って実験してみなければわかりません。1千万種類もの化合物を片っ端から実験して調べるには途方もない時間と労力がかかります。もし,事前に候補を絞ってから調べることができれば,開発のスピードが上がります。これを可能にするのが,遺伝子やタンパク質などの膨大なデータを,コンピュータを用いて解析する「バイオインフォマティクス(生物情報科学)」です。たとえば,タンパク質のデータベースと化合物のデータベースを組み合わせて,お互いに結合するかどうかをコンピュータ上でシミュレーションすることで,無限とも思える組み合わせから,候補となる化合物を絞り,ずっと効率的に新薬を見つけることができるのです。

効いている時の形を見つける

薬が効くのは,細胞が持つ「受容体」と呼ばれるタンパク質に結合し,受容体が細胞へと出している司令を調節するからです。受容体に結合する化合物を見つける鍵が,それらの形にあることがわかると,多くの研究者がシミュレーションによる新薬の開発に乗り出しました。しかし,なかなか予測通りの薬効(薬の効果)が出ないことも多いといいます。
そこで藤田先生が注目したのは,化合物がはまったときの受容体の形の変化でした。コンピュータ上で,形のわかっているアドレナリン受容体をベースとし,すでに薬効があると知られているいくつもの化合物をはめていき,その際の形を調べています。できるだけ生体内に近い状態で調べるために,薬効のある化合物がはまったときの,周りにある細胞膜を含めた受容体の形のデータを蓄積していきます。そうすることで,結合する化合物の中から,効く可能性の高い候補を絞り込んで,より効率的に探すことを目指しています。

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情報科学を武器に新たな可能性に挑む

ヒトの全ゲノムの解析から,体内での刺激物質や働きも見つかっていない「オーファン(みなしご)受容体」が100種類ほどあることがわかってきました。先生は,これらに結合する化合物を見つけることで,新たな薬づくりを目指しています。
現在の大学に来る前に,5年ほど企業に勤め,農薬研究に携わっていたという先生。「会社ではシミュレーションを使った薬の開発が行われていました。そこでバイオインフォマティクスの重要性を感じたことが,今の研究につながっています」。先生の研究によって今よりも効率的に新薬の種を見つけられるようになれば,医療の進歩はさらに加速されていくでしょう。