飛行船 HITAS(ハイタス) 森 要
飛行船技術において、大学ではトップレベルの実力を誇る帝京大学理工学部航空宇宙工学科。ここには、ハイテクノロジー(Hightechnology)、帝京大学(Teikyouniversity)、飛行船(Airship)、それぞれの頭文字を取ってHITASと名付けられた飛行船がある。
理想的な協力体制
「うまくトライアングルができているから、うちのチームは強いんです」と言って、3つの角に、「学内教員」、「学生」、「学外の協力者」と記入した。
飛行船を維持し、飛ばすのは想像以上に大変だ。
その証拠に、実際に飛行船を飛ばすことのできる大学は数少ない。
技術的なサポート、実際に手を動かして飛行船をつくり維持する人、そして維持するための場所と費用。
これらをうまく分担できているからこそ、帝京大学では飛行船の製作が可能なのだ。
学科に関係なく飛行船に興味があれば、卒業研究生の他にも、土日に活動できることを条件に、1年生のうちから飛行船づくりに関わる学生を募集している。
毎年参加した学生が4年目になって卒業研究として取り組むと、その時点で飛行船について相当くわしくなっている。
「たぶん、4年制の大学の中ではNo.1だよね」と笑う。
休日には学外から、過去に飛行船の製作に関わった経験がある飛行船を愛する人たちが集まってくる。
ものづくりにかける想い 中学生のときにエンジニアへの道を決意して以来、ひたすらエンジニアになるための努力をしてきた。
もともと森先生は、素材の強度を専門にする研究者だ。
帝京大学でも、窒化ケイ素の開発・作製とその強度の評価を続けており、10年経った今では市販品を凌駕するレベルの試料まで つくれるようになってきたという。
他にも、航空機の素材として使われているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)と呼ばれる素材を地元企業の協力を得て実際に作製し、その強度や特性を評価している。
森先生には、素材研究に対して強い想いがある。
それは「自分でつくること」。
どんなに優れた結果を出せたとしても、もとの素材を自分でつくれなければ意味がない。
だから、どの研究テーマでもまず自分でつくって、それから調べるのだ。そんな姿勢が、実際に飛行船をつくるという研究に結び付いているのかもしれない。
学生たちとつくる夢
2004年度から、卒業研究の一環として飛行船の製作・飛行実験をスタートさせて以来、すでに6年目に突入した。
昨年度の大きな進展は、テザーと呼ばれるヒモをなくしたことだった。
10m級の飛行船が、操縦不能になり住宅街や道路に不時着したら大問題。
だからこそ飛ばす側としては、ヒモをぶら下げて常に動きを制御できるようにしておきたいもの。
しかし、本当の意味でのフリーフライトを実現するためにも、テザーを船内に格納することが必要だった。
学生とともに試行錯誤をくり返してつくられたテザーを収納するケースは、驚くことに段ボール製。
中身は、ゴミ捨て時に本を縛るのにも使われるビニールヒモだった。
そして、緊急時に連絡を受けてヒモを放出するしくみは、ニクロム線が熱を持つとストッパー代わりの釣り糸が溶けるという、非常に簡単なしかけだった。
操縦不能になったら一大事、100回挑戦して100回ともきちんとヒモが落とせるように、試験をくり返したという。
テザーの格納には成功したが、電源の性能や、モーターの性能、プロペラの選定など、まだまだ検討すべきことがらは多いようだ。
さらに、空撮やフライトレコーダー、GPSシステムも組み合わせて、ひとつずつ課題をクリアしていく。
太陽電池パネルを設置することにより、飛行時間の延長も視野に入れている。
そんなHITASを使ってやってみたいことのひとつが、帝京大学構内をフライトして一周することだ。
さらに、もうひと回り大きな13mサイズの飛行船の製作も検討している。これまではつくりやすさを重視して葉巻形を製作してきたが、ノウハウを活かしてより美しい流線形を手がけたいという。
進化し続ける飛行船
実は、立派に見える飛行船もよくよく見ると手づくり感いっぱいの見た目をしていた。
強度、安全性ともに充分な素材を使っているとはいえ、それらをつなぎ合わせているのは透明な幅広ビニールテープ。
そして、後部の制御盤やプロペラが取り付けられているのは、なんと鍋ぶただった。
「ふただけだと売ってもらえないんだよね」と笑う森先生の横には、これまでに使われた鍋が積み上げられていた。
HITASを見ていると、自分の手でつくることにこだわる森先生の想いが伝わってくるようだ。
これからも、飛行船を愛する学生、学外の協力者からの協力を得て、HITASは進化し続けるはずだ。