化学の環でまだ世にないものをつくり出す

化学の環でまだ世にないものをつくり出す
薬学部 薬学科 前田大光 准教授

今では当たり前に存在する便利なプラスチックや,ゴムなどの「物質」は,私たちの元へ来るずっと前に,誰かが世につくり出していなければ存在しません。前田先生は,小さな環状の分子「ピロール環」に注目し,未来で役に立つ「物質」を生み出そうとしています。

昔から生物の中にある大切な環

血液の赤,植物の緑など,生き物を象徴するこれらの色は,ポルフィリン環と呼ばれる,ドーナツ型の分子がかかわっています。環のなかに鉄があると赤になって酸素を運び,マグネシウムがあると緑になって光合成で重要な働きをします。ポルフィリン環は,炭素4つと窒素1つからなる五角形の分子「ピロール環」4つが,窒素部分を内側に向けて平面状に結合しています。生体物質としてよく知られているポルフィリン環と対照的に,その骨格を構成するピロール環そのものの特徴を活かした物質材料については,非常に研究例が少ない状態でした。

積み重ねて新しい物質を生み出す

ピロール環からなる物質は,平面構造が積み重なって集合化しやすいという性質を持っています。また,NaClのような硬い無機結晶とは違い,炭素を骨格とした有機分子の集合体は柔らかく,多様な機能を持ちやすい性質があります。そこで先生は,分子を構成する部品の種類をいろいろと変えることで,さまざまな物質をつくっては,その物性を確かめています。たとえば,ゼリーのようなゲル状の物質や,流動性と剛直性を併<あわ>せ持つ液晶物質を開発し,化学刺激で瞬時に色が変わったり,状態が変化したりする物質をつくり出しました。医療用素材としても期待されるピロール環の新たな機能性材料としての可能性が評価され,2012年に文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました。

「つくる化学」へのこだわり

分野を問わず幅広く科学に興味を持っていた先生は,「生物に学び,物理で考え,化学でつくる」という言葉を好んで用います。まだ学生のときに,ポルフィリン環の内側に向いた窒素の2つを外側へ向けてみるという課題に挑戦しました。これをつくり出すことに成功したとき,まだ人類が出会っていない化合物をつくったという事実に,大きな感動を覚えたと言います。すぐに役に立つかどうかにとらわれず,新しい物質創成の考え方や方法論の開拓者になりたいという先生。この研究室で生まれた「物質」が,幾人もの研究者の工夫を経て,未来では当たり前になっているかもしれません。

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