技術革新は新素材の誕生から 堤治 准

技術革新は新素材の誕生から 堤治 准

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生命科学部 応用化学科 堤治 准教授

生きものがエネルギー源として使っているブドウ糖(グルコース)は,長く連なることで,植物のからだを支える強固なセルロースへと姿を変えます。黒鉛とダイヤは,まったく同じ炭素原子からなりますが,結合のしかたが変わるだけで見た目も性質もまったく違います。そんな結合のしかたと性質の変化を利用して,今までにない新素材が生まれようとしています。

堤先生

並びが変わると性質が変わる

堤先生が注目しているのは,液体と結晶の両方の性質を持つ液晶性の分子です。外から電気や熱などのエネルギーを加えることで,分子の方向が「ばらばら」の状態と「きれいに整列」した状態を行き来する,相転移という現象がおこります。そこに目的の分子を結合させれば,液晶の性質を活かして分子の並び方を自在に操ることができるはずです。
「目的の分子を結合させても,思い通りの機能が出ないことがほとんど。でも,よく調べると,予想していなかったところでまったく新しい現象が見えてきたりして,それがおもしろい」。扱うのは,高分子だったり,無機物だったりと多種多様。すでに発表されている論文や身の回りからおもしろい現象を見出しては,その機能をより強く出すための分子をデザインします。

夢の分子発見か!?

現在,学生とともに研究を進めているのは,紫外線を照射すると発光する金錯体を結びつけた「液晶性金錯体」。液晶の相転移が起こり化合物どうしの距離が変われば,発光にも何かしらの変化が出ると考えられます。実際に,25℃,85℃,130℃と温度を変えていくと,分子の重なる向きがずれ,それぞれ紫色,黄色,赤色と変化させることに成功しました。テレビなどに使われる液晶パネルは,RGBという3原色に対応する3種類の材料をを厳密に並べてつくられています。しかし,たったひとつの物質で多数の色を再現できるとしたら,その製造過程は大幅に簡略化できるかもしれません。

未来を変える新素材

軽くて燃費のよい大型旅客機ボーイング787,電気エネルギーを動力源とする電気自動車,よりキレイに映る大型液晶テレビ。世の中では,日々新たな技術が生まれ,私たちの生活を変えていきます。そこには,軽くて丈夫な繊維,熱伝導性の高い金属など,アイデアを具現化し,実用化につなげるための「新素材の誕生」が必要なのです。
「化学って,すべての基礎になっているんです。ひとつ新たな素材が生まれるだけで,世の中が大きく変わる可能性を秘めている。だからこそ,やりがいを感じるし,魅力があるんです」。先生の研究が実用化に結びつくとき,きっと液晶テレビやスマートフォンは,今とはまったく違う形,新しい機能を持っていることでしょう。