フサアンコウ光と色でかくれんぼ
冬になると、鍋料理の主役としてアンコウをよく見かけるようになります。
じつはこれ、頭に光る突起をもつことで有名なチョウチンアンコウではありません。
チョウチンアンコウは、食用のアンコウよりもさらに深く光の届かない水深100 〜3、000mくらいの海の底に棲んでいます。
アンコウの仲間は深海に生息する種も多く、どんな暮らしをしているのかよくわかっていない種類もいます。
チョウチンアンコウと同じアカグツ亜科に属するフサアンコウは、1891年に発見されて以来一度も姿が見られませんでしたが、2012年、無人探査機の調査によってその姿が明らかになりました。
ピンクやオレンジなど、赤っぽい色合いのものばかりだと考えられていたフサアンコウが、子どものときは青く透き通り、大人になると赤く色が変わる魚であることがわかったのです。
色の変化の理由は、棲んでいる場所にあると考えられます。
海の中は水深200mを境に太陽の光が届かなくなり、がらりと環境が変わります。
フサアンコウの子どもは、海流のある水深100~200m、光がうっすら届く比較的浅い場所でプランクトンを食べながら生活しています。
青っぽく透明なからだは、光で透けて他の生き物からは見えにくく、外敵から身を守ることに役立つはずです。
しかし、水深1、300〜3000mの世界に棲む大人のフサアンコウは、他の魚よりも泳ぎが遅いため、岩場や海底の砂泥の中に身をかくし、 獲物を待ち伏せして捕まえます。
大人のフサアン コウのからだは、赤い光を反射することによって 赤く見えているので、太陽光の中でも赤い光がほ ぼ届かない深海では姿が見えにくくなります。
そのため、頭についている突起の光におびき寄せら れた獲物に自分の存在を気づかれにくいという利点があるようです。
100年以上もの間、暗い海の底に隠れていたフサアンコウ。その正体は、大人になるにつれて色が変わるマントを使って身をかくす、かくれんぼ上手な魚だったのです。(文・土井恵子)
画像提供:TheMontereyBayAquariumResearchInstitute(MBARI)