新素材で建設産業を建て直す

新素材で建設産業を建て直す
理工学部 建築都市デザイン学科 持田泰秀 教授

木材や石材など,さまざまな材料が建物の建設に使われています。材料が変われば,建物自体はもちろんですが,事業計画,部品製造,運搬,施工,補修・メンテナンスに至るまで,一連の「生産」の流れが大きく変わります。持田先生は,新しい建設材料をつくることで,新しい生産のしくみをつくろうとしています。

持田先生

素材が変われば,現場が変わる

現在,建設の現場で使われる丈夫な素材は主に鉄です。鉄に代わるような,丈夫で軽い素材があれば,職人が重い素材を担いで移動するのも楽になり事故の軽減にもつながります。また,鉄は事前に設計通りに成形して持ち込む必要がありますが,もし現場で使いたい形に変えられるような材料があれば,コンパクトな状態で運搬もしやすくなり,臨機応変な調整も容易になります。材料が変わることで,実際に施工が行われる現場での作業だけでなく,部品製造の工程や運搬方法,メンテナンスのしかたなど,生産のしくみは大きく変化します。

炭素繊維と樹脂が織りなす夢の新素材

先生が開発を進めているのは,熱をかければ何度でも形を変えることのできる熱可塑性樹脂と,炭素繊維の合成素材です。軽くて丈夫な炭素繊維を2万4千本束ねた芯に,熱可塑性樹脂を組み合わせることで,さらに熱加工しやすい特性を持つ素材を生み出そうとしているのです。たとえば鉄の代わりにこの炭素繊維を使うことで,強度が鉄の16倍,重量が10分の1程度になります。さらに炭素繊維樹脂は100℃程度の熱によって形を変えることができるため,使用する場所で熱すればその場で使いたい形に変えることができるのです。

「使えるしくみ」も一緒につくる

建設企業に25年間勤め,業界の現場を知る先生は,「建設現場の労働環境を少しでも楽にしたい」という想いがあります。しかし,職人の労働環境は,賃金面,体力面など年々に厳しくなっており,どんどん職を離れていっているのが現実です。
実は炭素繊維は,建築基準法に指定されている素材ではないため,建物にそのままでは使えないという背景もあり,建設業での応用開発はあまり進んでいません。「素材の特性を活かす法律面のしくみをつくることも課題」と先生は言います。しかし,少しずつですが,導入してくれる現場も出てきています。新素材による建設産業の建て直しはまだはじまったばかりです。