人工素材が「生きた」血管になるとき 吉成 宏巳

人工素材が「生きた」血管になるとき 吉成 宏巳

「これはペットボトルと同じ素材でできています」と吉成宏巳さんが見せてくれたのは、長さ20cm程のゴムホースのような管。これをからだの中に入れると、どのように血管の役割を果たしてくれるのだろう。

しなやかさを生み出す3層構造

吉成 宏巳 帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 准教授

吉成 宏巳 帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 准教授

生体の血管は内膜、中膜、外膜の3層構造になっている。
血液が通る内側から順に、内皮細胞、平滑筋細胞、コラーゲン繊維層だ。
この構造のおかげで血管は弾力性を持ち、時には血管自体が伸び縮みすることによって血液を送る補助を行っている。
病気や事故で、血管がちぎれたり詰まったりしてうまく機能しなくなったときに、血管の一部を人工物で置き換えることがある。
しかし、やわらかさや弾力がまったく異なる人工素材でできた血管を生体につなぐと、動きの違いによってうまく機能しないことがある。
そこで吉成さんは、人工血管の強度や弾力などの性質が、生体内に移植する前と後でどのように変化するのかを調べている。

血管の中に細胞層をつくれ

吉成 宏巳 帝京大学 理工学部 バイオサイエンス学科 准教授今の人工血管は、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはテフロンでできているものが主流だが、これには血中のタンパク質が吸着しやすいという弱点がある。
血小板などをトラップして血栓をつくりやすくなってしまうのだ。
生体の血管では内皮細胞がタンパク質の吸着を防いでいる。
まずは、人工血管の内側に内皮細胞を定着させることが必要なのだ。
そのために吉成さんが取り組んでいるのは、外膜と同じ成分のコラーゲンをゲル状にしたものを土台にし、そこに細胞を定着させる方法。
「それがうまく行ったら、いよいよその管に心臓が血液を送り出す『拍動』をかけ、性質がどのように変化するのかを見ることができるのです」。

疑問を解いて、次のステージへ

再生医療技術が進歩しても、人工血管のような、人工物による臓器はきっとなくならないだろうと吉成さんは考えている。
緊急時にすぐ使えるものが必要なはずだからだ。
今の研究がちゃんと未来につながっている、と実感している。研究のステージを1段ずつ登り切ったとき、そこには人工血管研究の新しい世界が開けているはずだ。