「歯のばんそうこう」で虫歯予防!? 本津 茂樹
「自分の歯にもたまに貼っているんですよ」。にやりと歯を見せた本津茂樹さんが開発した「歯のばんそうこう」は、難しいとされてきたエナメル質の修復を可能にする可能性を秘めた新素材。最大のポイントは歯と同じ素材のハイドロキシアパタイトを薄くて曲がるシートにできたことだ。
異分野の発想を生かした素材開発
もともと人工歯根などの金属の表面コーティングに使われていたハイドロキシアパタイトの厚さは0.1~0.3mm程度。
人体に安全で馴染みやすい性質を持つ一方で、固く割れやすいという欠点があり、厚いコーティングではちょっとした衝撃でヒビ割れしたり、金属表面からはく離してしまう。
そこで、超電導薄膜の研究開発を行っていた本津さんは、電子材料の薄膜をつくるのに使われる「レーザーアブレーション法」を導入することにした。
この方法はハイドロキシアパタイトの結晶にレーザーを当てて原子、分子、イオンなどに分解し、飛び出してきたこれらを結晶と対向した位置に置かれた人工歯根の上に堆積させて、再び結晶化させるものである。
その結果実現できたのが、0.001mm以下という常識を超えた薄さでのコーティングだった。
つくりたいのは少し未来の「あたりまえ」
さらに試行錯誤を重ね、薄膜をのせる基板とし て塩の結晶を使い、薄膜を堆積した後、塩結晶基板だけを水に溶かして薄膜をシートとして回収する方法を確立した。
こうしてハイドロキシアパタイトのみでつくられた、薄くて曲がる新素材が誕生したのだ。
歯と同じ素材のシートを貼り付ければ、虫歯を予防したり、虫歯の進行を食い止めたりできるはず。
手元に置かれたシートを眺めながら思いついたのが、「歯のばんそうこう」の原点だった。
「夢を追い、そしてヒトの役に立つものをつくる。それが工学を志すものの使命です」。
そう語る本津さんが所属する近畿大学生物理工学部では、マンモス復活プロジェクトや芋エネルギーなど、医・工・農・理それぞれの分野が連携をとることで、まるで夢のようなプロジェクトがいくつも進められている。
薬局で薬と一緒に虫歯治療用の「歯のばんそうこう」が買える——そんな未来はもうすぐそこまで来ている。(文・石澤敏洋)