「さんま魚醤」を復興の調味料に 宮城県水産高等学校
日本有数のサンマの水揚げ量を誇る宮城県にある宮城県水産高校では、サンマの缶詰づくりやナマコの人工採苗(さいびょう)など、さまざまなアイデアをかたちにしています。そして今年、食品科学類型の生徒25名が「さんま魚醤(ぎょしょう)」の開発を始めました。
魚のしょうゆ「魚醤」
日本の食卓に欠かせない調味料、醤油(しょうゆ)は、大豆 に塩を加え、発酵させてつくります。
これと同じ手法で材料を魚にしてつくるのが「魚醤」です。
最近の東南アジアブームで人気のあるタイの「ナンプラー」やベトナムの「ニョクマム」も魚醤のひとつ。
日本では、四国など南の地域や、東北・北陸の日本海側沿岸地域で主につくられています。
魚醤は、魚を塩とともに漬け込んでつくります。微生物により「発酵」が起こるのと同時に、魚の内臓や肉の中にある酵素の働きにより、魚自身のタンパク質がアミノ酸に分解される「自己消化」が起こります。
すると、グルタミン酸やペプチドによってコクが出るのです。さらに熟成させて、液体だけ取り出すと魚醤のでき上がりです。
「宇田川乃露」の謎を解き明かす
宮城県水産高校がつくった魚醤「宇田川乃露」には、2つのユニークな点があります。
ひとつめは、材料には通常イワシなどが使われるところを、サンマを使ったこと。
地域の特産品を活かしています。
2つめは、魚醤はでき上がるまでに通常1~2年間程度かかるのですが、温度を50°Cに保った装置に入れることにより、たった1か月間で魚醤のような液体ができることです。
そこで宮城県水産高校では、この短い期間でどのようにして魚醤ができるのか、そして魚醤ができ上がる過程で、そこにいる微生物たちがどのような働きをしているのかについて研究することにしました。
「僕が普段魚を扱うのは料理をするときくらいです。先生からこの研究テーマを聞いたときは正直、難しいのだろうなと感じました。でも、ぜひやってみたいとも思いました」。
瀧口礼規くんと菅原浩人くんは興味をそそられたように口を揃えて言いました。
今回、この研究をサポートしている石巻専修大学の⻆田出さんも「難しいから挑戦したいという気持ちは、一緒にやる者としてとても心強いですね。微生物というのは、肉眼では見えない世界の生き物。
今年はまず、発酵過程での微生物や酵素の働きなど、魚醤の中で起きている現象をとらえることが重要ですね。
そのうえで、より効率よく魚醤をつくる方法を開発します。
とはいえ、研究は1000回撃って1回当たるくらいの軽い気持ちで、まずは楽しむことが重要だと思います」とエールを送ります。
「わからない」ままにしたくない
宮城県水産高校の生徒たちにとって初めての試みとなる今回の研究活動。
油谷弘毅先生は、「難しいことに挑戦しなくてもいい。
でも、わからないことにどう取り組むかを考えることに挑戦することが大事。
見えないからやらないのではなく、見えないなら見えるようにしてやろう、と方法を考えることが大切なこと。
それに、誰も知らないことを発見すると特許になり、商品の価値付けになるんだよ」と、実業に重きを置く水産高校らしい目標を提示していました。
研究に参加する遠藤英貴くんは、「しっかり観察し、さまざまな細菌を見つけ出したいです。
この研究は1年で終わらないと思うので、後輩にしっかり引き継げるよう、今年はその基礎をつくりたいです。
最終的には特許を取れるようにしたいです」と話します。宮城県水産高校の研究チームは今、未来を楽しみにしながら第一歩を踏み出したところです。
取材協力: 宮城県水産高等学校 食品科学類型
2 年 遠藤 英貴くん,菅原 浩人くん,瀧口 礼規くん 宮城県水産高等学校 教諭 青木 朝枝 先生,油谷 弘毅 先生,亀山 貴一 先生 石巻専修大学 理学部 生物生産工学科 ⻆田 出さん
東北バイオ教育プロジェクト、活動中!Producedby協和発酵キリン株式会社
協和発酵キリンでは、岩手、宮城、福島の3県の高校において、今後のバイオ産業を担う次世代を育成する「東北バイオ教育プロジェクト」をスタートします。高校生が自ら研究テーマを考え、実験計画を立て、結果から考察を導き出す、本格的な研究活動を実践したい学校を支援します。