水再生のしくみを浸透させる
理工学部 環境システム工学科 中島淳 教授
蛇口をひねれば水が出る。今私たちが当たり前に思っている生活が日本中でできるようになったのはほんの50年ほど前です。今後さらに途上国へと水インフラが拡大し,人口増加,経済発展が進むと,遠くない未来に世界的な水不足が発生すると言われています。そんな中,貴重な水資源を再利用する「水再生」が今注目を集めています。
現場で使うための維持管理
地球全体の水のうち,私たちが生活の中で使える水は,実は0.01%しかなく,それらが循環をして供給される量にも限りがあります。特に雨の少ない地域では多くの人が水不足に悩まされており,一度使った生活排水を浄化し再利用するしくみが重要です。その方法のひとつとして,分離膜を利用した方法が世界中に広がっています。現在多くの下水処理場では排水中の汚濁物質を微生物に分解させ浄化処理をした後,海や川に流しています。しかし,分離膜を用いて処理した水から微生物を除くことができれば,私たちの生活に再び使える水を得ることができるのです。ところが,この膜は繰り返し使っているうちに,汚濁物質が膜の穴に入って目詰まりをしてしまいます。また,タンクの中で増殖し過ぎた微生物は膜の表面を覆ってしまうため取り除かなければいけません。中島先生はこの膜分離の技術を,実際に現場で使えるように維持管理していくための方法を研究しています。
廃棄物をメンテナンスに利用する
炭の持つ多孔質が汚濁物質を吸着することはよく知られており,家庭用の浄水器などにも使われています。そこで先生は,取り出した微生物を乾燥させ,燃焼させて炭として使うことで,目詰まりの原因となる汚れを吸着できないかと考えたのです。
実際に実験室で10Lのタンクの中に微生物でつくった炭を加えて,30日間運転したところ,目詰まりが抑えられることが確認できました。先生はさらなる吸着効率の上昇や,実際の下水場で使えるように工業化を目指しています。
創る人を育てる
自治体の環境部の研究所で水環境を専門に24年間経験を積んできた先生は,日本の技術をより広く,海外の途上国にも伝えたいという想いから大学の研究者へと転身しました。一昨年からタイで排水処理の実験を行っていますが,日本の高い技術をそのまま持っていくのではなく,その国の技術レベルに合わせて持続できることが重要です。「そこが難しいけれど,おもしろいところ。しかも,技術だけじゃなく,国ごとの文化風習などにも考慮しないと失敗することがたくさんある」。先生の研究室には,卒業後は自国での活躍をしたいという留学生が多数集まってきます。「地域できれいな水環境を創る」人を育て,世界の水問題に挑んでいます。