インターンシップでの出会いが未来を拓く
松原 嘉哉
博士課程へ進学するか、就職するか。多くの理系学生にとって共通する悩みだろう。修士1年でバイオベンチャー企業に飛び込み、インターンシップと研究を両立していく中で、戦略系コンサルタントという自分の未来をみつけた松原氏が当時の体験を振り返る。
直感で飛び込んだベンチャーの世界
大学時代には、神経細胞のシミュレーションの研究をする一方で、だんご3兄弟で有名な佐藤雅彦氏の研究室にも所属した。知的好奇心が旺盛で、多くの人が当たり前と受け流すことでも突き詰めて考える。そんな松原氏にとって、生物の進化のしくみを利用した独自の技術を強みとするネオ・モルガン研究所でのインターンシップは、魅力的なものに思えた。「大企業で行われている研究というのは、ある程度イメージできるのですが、この会社は全く想像がつかない。面白そうだと思いました」。インターンシップ経験を経て、松原氏は日本の戦略系コンサルティングファーム・株式会社コーポレイトディレクションに勤務する。
オーダーメイドのインターンシップ
ネオ・モルガン研究所のコア技術は、「不均衡変異導入法」という「分裂時の突然変異率を飛躍的に加速する技術」だ。常識を覆す速さで従来の遺伝子組換え技術だけでは難しかった有用な性質を持つ生物を手に入れることができる。松原氏がインターンシップで行っていたのは、「不均衡変異導入法」を利用して開発した微生物の産業応用に関するリサーチ。そして、実在するバイオベンチャーが何故急成長したのかといったケーススタディーに取り組むことだ。それ以外にも、コンピューターシミュレーションを用いて、不均衡進化理論を裏づける手伝いもしていたという。
理系学生はインターンシップを行うにあたり、時間的制約を感じることが多い。研究経験や自分のスケジュールに合わせて「オーダーメイド」な形で仕事をすることができるネオ・モルガンのインターンシップ。研究と両立し、参加した学生3人すべてが卒業まで1年以上の間インターンシップを続けていたという。毎週決まった曜日に出社する人がいる一方で、松原氏の場合は、オフィスに顔を出すのは進捗報告を行うための月数回のみ。最大で月に50時間、通常はその半分の20時間ほどの時間を大学の図書館や自宅でのリサーチに充てていた。メールベースの作業が多く、研究の合間を利用して業務を行っていたという。
未来の自分を発見する
松原氏がインターンシップを卒業まで続けたのは、その業務内容・形態だけが理由ではない。むしろ、元戦略コンサルタントの同社代表取締役の藤田氏との密度の濃いやり取りの中に、未来の自分を見出したことが大きな理由だった。
「自分がリサーチしたことなのに、藤田さんは常に自分の思考の一歩先を行っている。『調べた結果』だけではなく、『どういうプロセスで調べたのか』も問われる」。同じバイオ系の修士課程を卒業し、現在に至る藤田氏。その思考の深さと物事を見る視点の源泉を探っていく中で、「仮説↓検証」という研究と同様の考え方が必要とされる戦略コンサルタントという職業に興味を持った。コンサルティング業界に入った今、素の自分を出せる環境がそこにあるという。 「憧れの人物に近づきたい。だからこそネオ・モルガン研究所ではない、別の会社を選んだのです」。笑顔で語る松原氏の挑戦は始まったばかり。藤田氏という具体的な目標の先には「人の気持ちがわかる温かみのあるコンサルタントになりたい」という未来が描かれている。
( 文・内藤大樹)