最大出力で前進する 組織を目指す
太陽誘電株式会社 執行役員 開発研究所 所長 茶園 広一
携帯電話、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ。身近な電気製品に必須な積層セラミックコンデンサの世界シェアトップ3の太陽誘電株式会社。太陽誘電の事業における製品開発の基礎を担う開発研究所では、茶園氏を中心に、技術戦略の目標を掲げる。目標達成の原動力となる「ひとりひとりが持つ能力を最大限に発揮できる組織」を作り上げていく。
セラミックス研究の虜になる
2003年、開発研究所の所長に就任した後も実験を続けるほど、茶園氏は積層セラミックコンデンサの研究開発に時間を費やしてきた。セラミックスとの出会いは大学時代。慶応大学の理工学部応用化学科4年生の初めに「有機化学より無機化学のほうが面白そう」という程度の感覚で選んだ研究室で、茶園氏のセラミックス研究は始まった。研究室に入って最初の2週間で茶園氏は研究の虜になった。「セラミックスの焼結を研究テーマに選びました。実際に原料を混ぜて、反応させて、成形して炉の中に入れる。今まで授業や本で
学んできたことが、焼き縮まったセラミックスに結果として出てくる。それが新鮮で、楽しくてたまらなかった」。できあがったモノを手にするたびに、もっと知識をつけたい、もっと実験で試してみたいという気持ちが、現在まで途切れることなく茶園氏の中にある。
不連続な技術進歩が新製品の突破口となる
大学院修士課程終了後に入社した太陽誘電では、約5年間、長靴にエプロンを身につけ、粉まみれになりながら積層セラミックコンデンサの開発に携わった。90年代に入り、茶園氏は、当時の開発目標となっていた積層セラミックコンデンサの小型化プロジェクトに参加した。単純明快だが、積層コンデンサの小型化には、より薄い誘電体のシートを積み重ねることが求められる。「当時の技術では、18μmのシートを積層することはできていました。私たちが達成しようとしていたのは、その半分、厚さ10μmをきるシートの積層です」。従来通りセラミックスの材料開発を進めただけでは課題を達成できない。そう睨んだ茶園氏は、専門外の工法・設備にも改良を加えた。「ひとつの技術を基に改良や工夫によってある程度、製品は進化する。だが、これまでとはフェーズの異なる『不連
続な技術レベルの進歩』があって、初めて画期的な新製品を連続して生み出していける」。
イノベイティブな人材になれ</h2?
システムの担当者と協力し、一枚一枚シートを手で積み重ねるような試作機を作って実験を続ける中で、微小スケールならではの試練があった。それは、機械そのものだけでなく、研究環境を均一に保つことが研究開発を進める上で重要だということだった。上司に掛け合い、空調も完備したクリーンルームを作ってもらった。けれども、プレハブだったために、夏には既存の空調だけでは対処できない。最終的には、屋根にスプリンクラーをつけて、屋根から直接冷やすことにした。課題を達成するために、できることは何でもやってみた。「誰かのアイディアに対して、だめだという評論家はものすごく多い。それよりも、『こういう考え方を加えたら、そのアイディアはもっと良くなる、やってみよう』と言えることのほうが大切だ」。太陽誘電では、実行可能性を追求して、そのために行動することができる人材を尊ぶ。行動力をともなった人材こそが、イノベーションを起こせるからだ。
不適材不適所を解消する
茶園氏は仕事の合間を縫って、社員と積極的に面談を設けている。それは、社員の声を拾い、「不適材不適所」を解消するためだ。「ポリマーの研究室に入っていたら、今頃ポリマーの研究を続けていたかもしれない」と振り返る茶園氏は、とにかく『好きになる能力』が自分の武器とのことだ。「仕事を遂行するためには、自分で考えて、自分で動く気概が必要。そのためには、やはり仕事が好きでなければだめだと思います」。仕事をする時間は、学生時代よりはるかに長く、扱う幅も広い。「やってみたら意外と楽しいと思えることはたくさんあると思います。自分の枠を自分で狭めず、挑戦してみて欲しい。前向きな異動や挑戦には寛大なところが太陽誘電の誇りですね」。茶園氏は、ひとりひとりが好きな仕事で最大限の能力を発揮できる組織を創り、常に新たな技術と製品を生み出す研究開発企業を目指す。