理想のかたちはいくつもある DDSの可能性
株式会社ナノエッグ
DDS研究から生まれた化粧品
売上げの確保に至るまでが正念場だといわれているバイオ業界において初年度から黒字経営を行なう株式会社ナノエッグの存在はきらりと輝く。現在500社を超えるバイオベンチャーの多くが、設立から数年という年月を研究開発に費やす中、同社は2006年4月の設立から1年を待たずに順調な売上げを確保している。中心となるのは独自技術のDDS(DrugDelivery System : ドラッグデリバリーシステム)「ナノキューブ」を利用し、大手エステティックサロンとの共同開発により昨年11月に発売した化粧品だ。聖マリアンナ医科大学難病治療センター内のDDS研究室発のベンチャーとして薬剤の治療効果を高めたり、副作用を軽減するためのDDS研究から生まれた最先端技術を化粧品に応用した。 既存の薬効成分を効果的に標的部位へ届けるためにどうするか。特定物質、特定手法ではないDDSだからこそ、目指すゴールは舵取り次第で無限にある。化粧品もそのひとつ。ここに企業として取り組む面白さがある。
「切り替え上手」が推進力
「やると決めたらできることは何でもします。ポストもプライドも私たちには関係ないから」。代表取締役社長・山口葉子氏がさらりと言った。隣で代表取締役会長・五十嵐理慧氏が頷く。大学の教員である二人の女性経営陣は、事業化を目指すと決めたときから自社の技術を売り込むために、大手製薬企業からベンチャー企業まで、営業に駆け回った。その数は50社を超える。お客様相談センターに問い合わせの電話をかけたこともある。立場やこれまでのプライドに捉われることのなく意識を切り替え行動に移す軽やかさが、同社の躍進につながっている。「成功するまで諦めない。理想のかたちはいくつもあるから、成功するまで様々な角度からアプローチします」。山口氏は社員を前に宣言した。研究者、主婦、大学教員を経て経営者として活躍を始めた二人。様々な境遇に順応してきた経験をもとに、これから遭遇するだろう難局も柔軟な姿勢で切り抜けていく。「常に楽しくて正しいと思う方向へ進みます」。五十嵐氏が語る決意は強くしなやかだ。
異分野交流が生み出す技術の「卵」
研究のバックグラウンドは不問。専門分野を極めるバイオベンチャーらしからぬ採用条件に対して「視点が異なるからこそ見えることがある」と山口氏は自信を見せる。 そもそも山口氏がDDS研究を始めたのは、物理学で博士号取得後、主婦を経てポスドクをしていたときに参加した日本膜学会がきっかけだ。自身の専門である物理学の知識が、生物学の分野でも応用できることに気づいた。実際、「ナノキューブ」は物理学で研究してきた「液晶」と皮膚の「細胞間脂質」の共通点に着目したことが開発につながった。 同社には、理・工・農・獣医・薬学といった多様な専門知識を持つ研究員が集まる。この多様性こそが、社名「ナノエッグ」に込められた「新たな技術の卵を次から次へと生み出し続けたい」という想いを実現する手段なのだ。「次に生まれてくる技術は、ナノエッグやナノキューブとは全く方向性が異なるかもしれない。でも、それが楽しみなんです」。と話す山口氏から笑みがこぼれる。新たな事業を生み出すための柔軟性は既に培われている。目指すところはひとつではない。新たに生み出される技術、生み出す研究員が同社の次の核になる。