新機器の力を証明する! 若き技術者による 実用例開発 -関 達也-

新機器の力を証明する! 若き技術者による 実用例開発 -関 達也-

Amalgaam有限会社 技術開発部 関 達也 さん

研究成果が実用化され、社会に出るまでには多くの人の力が必要とされる。株式会社医学生物研究所(MBL)の関連会社Amalgaam有限会社の研究者であり、理化学研究所で研究を行っている関達也さんは、画期的な蛍光タンパク質Keimaが応用されたタンパク質間相互作用分析機器FlucDEUX™のアプリケーション作成に携わる。機器の実力を示し、研究者たちの道標となる計測例を打ち立てていくのが関さんの仕事だ。

画期的な手法の登場とその立役者たち

数あるタンパク質間相互作用検出ユニットの中でもFlucDEUX™はタンパク質1分子の感度で検出を行えることを期待されて開発された機器だ。そのしくみはFCCS (蛍光相互相関分光法; Fluorescence crosscorrelation spectroscopy)といい、ブラウン運動によって液中をランダムに動いている蛍光分子の蛍光強度のゆらぎをレーザーによる共焦点光学系を利用してフェムトリットル程度の極微小な共焦点領域で観察する。2種類の蛍光分子のゆらぎに、相関があるかどうかを計測し相互作用の程度を測ることができる。この技術にタンパク質解析の可能性があると見出したのが、北海道大学の金城政孝さんだ。金城さんはスウェーデン留学時に出会ったFCCSという技術を、分子間相互作用の解析に応用するために研究を行っていた。研究を始めた当初、日本にまだFCCSの機械がなく自分たちで構築しようと計画していたが、レーザーの装置の設計は、大変困難であった。それが、蛍光タンパク質Keimaの登場で解決する期待感が高まった。Keimaは、2006年に理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームによって報告された。沖縄県阿嘉島で採集したイシサンゴの一種、コモンサンゴからクローニングされた色素タンパク質に遺伝子改変を加えて作られている。最大の特徴は、励起波長と蛍光波長が離れている(ストークスシフトが大きい)ことだ。この特徴があるからこそ、これまで採用できなかった1波長励起の系を設計できる。複数の異なる波長の励起光を用いた場合、屈折率の違いにより空間におけるそれぞれの焦点を一致させることが困難である。だが、1波長励起ならばその問題を考える必要がない。しかし1波長励起で十分に区別できる2種類の蛍光タンパク質は存在していなかった。だが、Keimaを用いれば、2つの蛍光を区別して検出できる。これは2種類の蛍光シグナルの相関を検出しているFCCSにとって、感度向上に大きく寄与すると期待された。このようにして基礎的な素材は揃ったかに見えた。次に求められるものは、これらを組み合わせ、事業化に向けて具体的に動く役割を果たすプレーヤーだった。

共同研究成果の事業化プロジェクトとの出会い

事業化にあたり、重要な役目を果たしているのがAmalgaamだ。AmalgaamはMBLの関連会社で、Keimaの事業化を推進する役割をに担ってきた。関さんはMBL入社後、1か月程度の研修を終えたすぐ後にAmalgaamに配属になった。FlucDEUX™のアプリケーションの開発に関わるようになったのは2009年からだ。関さんはこの機械に関わる話を聞いたときに「なんて上手いしくみなんだ」と思った。蛍光タンパク質には以前から興味を持っていた。
大学時代は神経細胞の研究をしており、GFPやDsRedといった蛍光タンパク質でのイメージングは行ったことがあった。FlucDEUX™に関わる前から個人的に勉強するなど蛍光タンパク質の最新情報は追っていた。もちろん、Keimaの話も聞いたことがあり、新しい蛍光タンパク質の可能性について惹かれるところがあった。実際に機器としてできあがったものを目の当たりにし、しくみを学ぶほど、その可能性に驚いた。Keima特徴を応用して、単一波長の励起光で2つの異なる蛍光タンパク質を観察するのだ。GFPやAzami Greenの蛍光と波長が重ならないため、結果としてノイズが少なくなることが期待された。まだ十分に試されていないFlucDEUX™の性能を自分が試していく。プレッシャーもあったが、思わず胸が躍った。

アプリケーション開発に奮闘する日々

その後、関さんがFlucDEUX™について任された仕事は、実際に機械を使用し、アプリケーション(実用例)を作っていくことだった。まずは、既報を参考に実験を組み立てることからスタートした。大学生のときも、前のプロジェクトでも経験のない、タンパク質実験に取り組むことになった。始めたての頃は系が安定せず、想定できなかった現象も起こったが、実験操作に慣れるところから始めて、1つずつ苦労しながら実験系を確かなものにしていった。こうしてカタログに載っている実験例ができあがっていった。しかし、関さんの周りの事業スピードは加速していく。ある日、「1か月後の学会に新ネタを出す必要がある。すぐに何かデータを出してほしい」という指示を受けた。それまでの実験ペースに比べ、はるかに時間の猶予が少なかった。でも、新しい実験をしなくてはいけない。そこで、既報や、これまでのアプリケーションでは示せていない例を作るため、阻害剤のアッセイにFlucDEUX™が使えるかという実験にチャレンジした。そこで選んだのは、がん抑制タンパク質p53/ 抑制因子Mdm2の系だ。Mdm2の結合阻害物質であるnultin-3を添加し、結合が解除されるかどうか、FlucDEUX™で測定した。測定は成功し、阻害剤アッセイでも使えることが示され、その成果は生化学会で発表された。
「これからもいろいろと新しいアプリケーションを作っていきたい」と関さんは語る。「1分子の感度で観察すると、これまでの手法で見ていたときとはまったく異なる新しい世界が見える。その実力を知ってほしいし、そのうえで、ぜひみんなに使ってほしい」。今も時折、想像していなかった観測結果が出ることもあるという。FlucDEUX™を知った頃のように、そのしくみには驚かされ続けている。