知的好奇心が謎を解くカギになる 相賀 裕美子

知的好奇心が謎を解くカギになる 相賀 裕美子

総合研究大学院大学 遺伝学専攻(国立遺伝学研究所 発生工学研究室)
相賀 裕美子(さが ゆみこ) 教授

たった1個の受精卵が、2個、4個と分裂を繰り返し、違う性質を持った細胞になっていく。発生学の魅力は「生き物はどのようにして多様性を生み出しているのか、わかっていないことだらけなこと」だと相賀裕美子教授は言い、その過程を「複雑怪奇極まりない」と表現する。

生殖細胞の「性」は何で決まるのか

発生初期の生殖細胞は、オス(精細胞)にでもメス(卵細胞)にでもなれる能力を持っている。メスでは卵巣という環境があるから卵細胞に、オスでは精巣があるから精細胞になるのだ。その証拠として、性決定前の生殖細胞をオスのマウスから取り出し、メスのマウスに移植するとその細胞は卵細胞として発生していく。

相賀先生らは、Nanos2遺伝子が精巣に入った細胞にだけ発現することで、オスの性分化に重要な役割を果たしていることを突き止めた。Nanos2遺伝子をノックアウトしNanos2タンパク質がつくられないようにすると、その生殖細胞はメスの性質をもつようになるというのだ。しかし、周りはオスの環境にあるため、細胞は結局うまく発生・分化することができずにアポトーシス(自殺)へ向かう。現在は、その分子機構を明らかにしようとしている。

日々の実験が、必ず答えをくれる

「生き物の身体を形作る過程には、とても複雑なメカニズムが存在しています。それを解き明かす方法を考えるのが楽しい」と相賀先生は言う。小さくても、誰も考えていないようなことを自分で見つけ、これまでになかった概念を世の中に出せるのが研究の醍醐味。難しいことだが、日々行っている実験の中にヒントは必ずある。

ポスドク時代に、体節形成に重要な役割を果たす遺伝子を研究していたときのことだった。目的の遺伝子の発現を、標識したRNAプローブを結合させることで検出したが、何度やっても検出できる検体とできない検体があった。「実験に失敗したものと思っていました。でも、本当は失敗ではなく、全部事実だったんです」。その遺伝子は2時間間隔という発現周期を持っていたのだ。「まさか、そんなにダイナミックな発現のON/OFFが起こっているなんて、当時は考えてもみなかったんです」。自分が出した結果をよく見つめ直し、どこが成功でどこが失敗なのかをしっかり解析することで、初めて次のステップに進むことができるのだ。

知的好奇心を持った人を育てたい

「将来のことを考えたら、人を育てるのが一番重要。研究ができるのは、知的好奇心がある人ですよね。それが失われたら、サイエンスの発展は絶対にないと思うんです」。子どもたちの中に知的好奇心の芽を育てるためには、面白い実験を見せて一時的に惹き付けるだけではだめだ。研究者という職業が、世の中でどれだけ重要なポジションなのか伝えていかなければ、と強く訴える。

研究室には、大きな成果を上げている学生も多い。「一緒にやっていると、彼らが変わっていくのがわかります。期待していますよ」。これからの研究を担っていく次世代が、相賀先生のあたたかい眼差しに見守られ、育っていく。