歩き続けるふしぎなロボット 池俣 吉人

歩き続けるふしぎなロボット 池俣 吉人

ロボットといえば、人が歩くときに必要な脚の上げ下げを電気エネルギーで行っている電動歩行ロボットを思い浮かべる。
しかし、帝京大学の池俣吉人さんがつくる「受動歩行ロボット」は、電力なしで、軽快に歩くのだ。

歩くことでバランスをとる

一般的な歩行ロボットは、からだの状態やかかる力をセンサーで感知して、関節の角度や動かす速さを制御している。
しかし、受動歩行ロボットは「歩くこと」によって転ばない安定な状態を維持している。
自分で動力源をもたずに歩くことから、「受動」歩行という名前がつけられた。
ゆるい下り坂に受動歩行ロボットを置くと、下り方向に向かって倒れるように力が働く。
すると、片方の足が前に出て、そちらの足に重心が移動する。そして、後ろにあった足が前に出てきて、そちらの方に重心が移動する。
人にとっては当たり前の動作だが、ロボットでもこれが自然に起こり、前に向かって歩くのだ。

「歩幅」が歩くしくみのカギだった?

ikemata2受動歩行ロボットの歩き方を見ていると、人の歩き方について改めてわかることがある。
受動歩行ロボットのひざにつけられているロの字型のフレームは、両足が着地しているときの股の角度や歩幅を一定にする役割も果たしている。
池俣さんは、画像や実験データを比較しているときに、人は受動歩行ロボットと同じしくみで安定した歩行をしていることに気づいた。
「ロボットの動きを通じて人の歩き方をもっと研究してロボットに活かしたら、より安定して長い時間歩けるようになるのでは」。
池俣さんは、この研究を通じて人が歩くメカニズムを力学的に解明し、将来的には歩行支援や義足の技術へ応用することを見据えている。

音を聞いてわかる、実験をして気づく

シミュレーションでわかることはたくさんあるが、実験をしてみて気づくことも多い。
「大きな受動歩行ロボットは、実際に歩かせるとドスドスと大きな足音がします。
人は、そんな音を立てなくても歩ける。
ロボットと人では、エネルギーの使い方など異なる部分がやはりあるんです」。
人の歩行メカニズムを知るためにやりたい研究がたくさんある。
池俣さんの研究は、受動歩行ロボットと同じように、一歩一歩着実に前に進んでいくだろう。

池俣 吉人 帝京大学 理工学部 機械・精密システム工学科 講師