あつまり、考え、交流を生むものづくり 内山俊朗

あつまり、考え、交流を生むものづくり 内山俊朗

電子楽器「beacon」には、弦も鍵盤もありません。
beaconの周りに立つと音が出るので、からだを動かして演奏します。
筑波大学の内山俊朗さんが開発したこのシンプルな電子楽器で、私たちは、未来のものづくりを知ることができます。

からだを動かすことが演奏になる

beaconbeaconは、円柱型の金属のボディに、レーザーとセンサーがついた電子楽器です。
弦や鍵盤の代わりに円柱の上部でレーザーが回転し、センサーが光と足の交差点を認識すると音が鳴ります。
レーザーの光と交差した足の距離によって、音が変わるしくみです。
距離が短ければ低い音、長ければ高い音になり、音の長さはbeaconに向けられた足の向きで変えます。
演奏者はレーザーに当たったりよけたりしながら音をつくっていきます。音が出るのが楽しくて、自然とからだが動くのです。

みんなで集まるからこそ生まれる音楽

beaconの円柱形のデザインは、輪になって囲めるように、キャンプファイヤーをイメージしてつくられました。
バンドやオーケストラと違い、みんなでひとつのbeaconを囲んで演奏します。
レーザーが複数出るため、協力して演奏すると複雑なハーモニーやメロディも生み出すことができます。
内山さんがbeaconをいろいろな人に試してもらったところ、はじめはひとりひとりがばらばらに音の出し方を探っていた人たちが、アイデアを出しながら曲らしいフレーズやハーモニーをつくろうとする様子が観察できました。
「今の電子楽器は、ひとりいればオーケストラのような複雑な音楽をつくり出せます。
だからあえてみんなで集まって音楽を奏でる電子楽器をつくってみたかったのです」と内山さんは言います。
beaconがあることで、誰もが気軽に集まり、ひとつの楽器を通じてコミュニケーションが生まれる空間ができ上がるのです。

「もの」を通じたコミュニケーション研究

uchiyama内山さんの研究室は、beaconのように、ある道具を開発し、道具という「もの」を介して起こる、ヒトの感情や行動、空間の使われ方を研究しています。
心拍数や脳の波形、会話の発話量から、「もの」を介したヒトの変化を測ります。
内山さんが所属する芸術専門学群には、美術など芸術分野に関連した勉強をしている人が多く入ってきます。
しかし、センサーを使ったプログラミングや金属加工など、メカニカルな作品づくりもする内山さんの研究室の学生のうち、理系は約3割です。
作品をつくるところでは工学の研究者と協力し、実験をするところでは医学や心理学の研究者と協力して行います。
プログラムを組むところや基盤をつくるところから、検証するところまで様々な分野の人の手が関わっています。
スポーツやゲーム、リハビリテーションや高齢者のワークなど人が集まる空間にbeaconは使えると考えられています。
機械で何でもひとりでできてしまう世の中にあって、ヒトとヒトとが直接対話する機会をどう生み出していくか、ヒトが集まる空間をどう使うかはますます大事になってきます。
よいコミュニケーションを演出する「もの」をつくることは、今後求められてくるでしょう。
beaconの研究は理系も文系も一緒になってそんな新しい「ものづくり」に向かう第一歩なのです。

beacon を実際に見てみたい方はこちら → http://www.kansei.tsukuba.ac.jp/~uchiyamalab/beacon 

内山 俊朗(うちやま としあき)

筑波大学 芸術専門学群 デザイン専攻 講師

2001 年筑波大学芸術学系助手を経て,2002 年 から 2006 年まで富士通株式会社総合デザインセンター勤務。2006 年から現職。