学生時代に身につけた 科学技術コミュニケーションを胸に、 科学技術行政の現場へ 篠原摩有子

学生時代に身につけた 科学技術コミュニケーションを胸に、 科学技術行政の現場へ 篠原摩有子

東京工業大学 科学技術コミュニケーション実践 受講生作品 篠原摩有子さん

大学院では物理学を学び、メーカーの技術職として就職した後、内閣府に転職した篠原摩有子さん。科学技術政策の司令塔の一員として、総合科学技術会議の運営やパブリックコメントの取りまとめに関わっている。進路選択の根底にあったのは、「社会と科学技術をもっとつなげたい」という想いだった。東京工業大学大学院で開講されている「科学技術コミュニケーション論」受講生OGの篠原さんに、同講座を現在履修中の勝又さんがインタビュー。科学技術コミュニケーションの視点は彼女のキャリアにどのように活かされているのか。

インターンシップの中で実感した、研究が社会と向き合うことの重要性、そして転職

勝又さん まずは、内閣府に転職するまでの経緯からお伺いしたいと思うのですが、学生時代は何をされていたのですか?
篠原さん 私は物理学専攻で基礎研究をしていましたが、研究職ではなく研究を活かすような研究企画がやりたかったんですね。でも就職活動をしてみると、なかなか難しく、非常に歯がゆい思いをしました。それで、修士2年の時に、※科学技術政策研究所(NISTEP)のインターンに応募しました。インターンに応募したときには既にメーカーへの就職が決まっていましたが、研究と社会の接点について興味があり参加したんです。NISTEPでは、研究員の方の調査研究のお手伝いをしたり、キッザニア東京で研究を体験する子供たちにインタビューをしたりしました。そのときに印象に残ったのは、物事を決めていくときに公務員、研究者、学生などプレイヤーがたくさんいて、それぞれが様々なポジションで貢献していることでした。

勝又さん メーカーの技術職から行政に転職した理由はなんだったのでしょうか?
篠原さん 当時はSEとしての業務をやっていて、やりがいはすごくありました。しかし、仕事に区切りができたときに「技術者としての道を究めていくのが10年後、20年後のなりたい姿なのか?」とふと疑問に思いました。一方で学生時代に科学技術コミュニケーションを勉強し、日本の科学技術はもっと社会との関わりを持つべきなのではないかという問題意識があったので、たまたまウェブサイトで内閣府の任期付き職員の募集を見つけて応募したんです。今思えば、学生時代のインターンで科学技術政策形成の一端を見たという経験があったからこそ、内閣府という選択肢が浮かんだのだと思います。

科学技術政策の司令塔として奔走する日々

勝又さん 現在行われている業務の内容を教えて下さい。
篠原さん 主に総合科学技術会議に関する業務に携わっています。総合科学技術会議とは、各省の連携により、国全体としての総合的・基本的な科学技術政策の企画立案や総合調整を行う会議で、科学技術政策の司令塔とされています。12月にも、今後5年間の科学技術政策の指針となる第4期科学技術基本計画の取りまとめを行いました。日々の業務としては、上司について、政務三役の方々に計画についてご説明する場に同行することもあるし、有識者の方にお越しいただいて知識共有の会議をセッティングするといった秘書的な仕事もあります。

勝又さん 現在のお仕事の中で篠原さんらしさを加えているのはどういう点ですか?
篠原さん 行政側から一方的に情報を発信するのではなく、国民の皆さんが情報を取りに行きたくなるような双方向の歩み寄りを助ける場面にあると思っています。例えば、一般の方と行政をつなぐ場としてパブリックコメント(パブコメ)がありますが、政務官の方にお願いしてパブコメの告知にメッセージを掲載していただきました。事務的な告知文よりも、行政の生の声とともに伝えた方が、一般の方々の関心を惹きつけられると思ったからです。これま
で前例がないことだったので実現までに時間がかかりましたが、外部から来たから気づく点、改善点を伝えることで、周囲の人に改めて気づいてもらうというのも、私の頑張りどころかなあと思っています。

社会から見て、自分の研究が何を求められているのか、常に考えてほしい。

勝又さん 企業から行政とキャリアを積まれましたが、今後はどうされるのですか?
篠原さん 今は政策策定のところを勉強していますが、任期後は企業で社会との対話を意識しながら研究企画に携われたらと思っています。やはり若いうちに、現場で課題に向き合って自分の力で解決する力を身につけておきたいんです。
勝又さん 篠原さんの歩んでいる道には「社会とつながる」という想いが1本通っているんですね。最後に、私たち学生にメッセージをいただけますか。
篠原さん 外から見られているということを意識して仕事をしてほしいなと思います。例えば研究なら、社会から見て自分の研究がどういう問題の解決を期待されているのか、それを意識するのが大事かなと。もちろん、私も学生時代に自分が取り組んでいたので、基礎研究は大切だと思います。でも、事業仕分けでもあったように、これだけたくさんの国民のお金を研究に費やしているのだから、研究者には社会に説明する能力が求められると思います。基礎研究でもいいんですよ。「この研究が成功すれば○○というかたちで社会に還元されます」と言えるように、仕事をしてほしいですね。

※NISTEP:文部科学省 科学技術政策研究所
(National Institute of Science and Technology Policy)。
文部科学省附属の研究機関であり、科学技術政策遂行のために、行政との連携をとった機動的な調査及び将来の政策課題を見越した自発的な調査を行っている。