効き目時間を操るお薬設計士 昭和薬科大学 渡辺善照

効き目時間を操るお薬設計士 昭和薬科大学 渡辺善照

病気に効く成分が見つかっただけでは患者さんを救えないよ。
どんな形の薬にしよう。
錠剤や粉薬、液体の薬はからだの中で溶ける速さが違うんだ。
必要なときに必要なだけ成分が吸収されるように効果的に届く形に仕立てるんだよ。

溶ける時間で飲み方が決まる

薬の効果は、血液中に含まれるその成分の濃度で決まります。
最も代表的な錠剤は胃や小腸で溶けてからだに吸収されると、2~3時間で成分の血中濃度が上がり、ピークを迎えると、徐々に下がっていきます。
1日3回など、複数回飲む薬では、成分が一日一定値以上血液中に残るようにしているのです。
水なしですぐ効くといわれる薬は口の中ですぐに溶けるように設計されており、その血中濃度のピークは飲んで1時間後です。
また、成分がゆっくり溶け出し、1日1回の服用で効果を保てる薬もあります。
このように薬をいつ、何回飲むか(用法用量)は成分の溶け方を設計することで決まります。

効き目を遅らせ、症状に届く

最近、朝に症状が出やすいアレルギー性鼻炎など、病気には発症しやすい時間があることがわかってきました。
これは体内のホルモンバランスの時間変化が原因と言われています。
そこで、病気が発症しやすい時間に血中濃度のピークがくるように薬を飲もうという「時間薬物治療」が注目されています。
ところが、気管支喘息のように明け方に発症しやすい病気は、夜寝る前に薬を飲むと明け方までに薬の効き目が落ちてしまいます。
そこで、渡辺善照さんがつくったのが、遅延型製剤。
水を吸収してふくらむ膜で成分を覆い、さらにその周りを少しずつ水が染みこむ層で囲います。
薬を飲むと数時間かけて層の中に水が染みこみ、あるとき覆っていた膜が破裂し、成分を放出する仕組みです。
これで、夜寝る前に薬を飲んでも、5~6時間後の明け方に成分を体内に放出できます。

進化する薬の設計

薬は科学の進化で変わっています。
薬の大半は有機化合物でできていますが、ホルモンや抗体など、人の体内でつくられる生体物質を薬として使うこともあります。
たとえば、胃で分解されない、生体物質の小腸への届け方がこれから注目されるでしょう。
より効果的で、安全に薬をからだに届けるため、設計士のお仕事はまだまだ増えていきそうです。
(文・上野裕子)

取材協力:昭和薬科大学薬学部薬剤学研究室教授渡辺善照さん