超生命体を追え! 卵を産むけど哺乳類、カモノハシ
超生命体ラボとは、常識を超えた生命、すなわち“超生命体”を追い求め、生物の驚異に迫る研究を紹介するコーナーである
見た目は哺乳類だけど
18世紀、ヨーロッパはオーストラリアから持ち込まれた動物のはく製に度肝を抜かれっぱなしであった。
オーストラリアから伝えられた動物はどれも、ヨーロッパ人が見たことない新種ばかり。
なかでも長い間分類方法をめぐって論争になった動物がカモノハシであった。
カモノハシは、4本の足を持ち、しっぽもあり、体には毛が生えているなど哺乳類の特徴を備えていた。
しかし、くちばしや、足の水かきなど、鳥類の特徴も備えている。
当時のイギリスの学者は、ビーバー等にカモのくちばしを精巧に接(つ)ぎ木した偽物ではないかと疑ったという。
さらに「総排出腔」という鳥類や爬虫類に特徴的な、尿や糞の排出、そして精子・卵の排出を行う器官が見つかり、議論がより複雑になった。
カモノハシは哺乳類・鳥類・爬虫類のどれなのか?
決め手は乳首と乳腺
ある学者は「翼がないから鳥類じゃない」といい、他の学者は「卵生だから哺乳類ではない」という意見をぶつけあった。
決定的証拠は、解剖によって、乳腺が発見されたことだった。
体表に乳首はないのだが、特殊な乳腺があり、そこから子どもは母乳を飲む。
つまり「哺乳」しているので、カモノハシは哺乳類と呼ぶことになった。
しかし、誰も卵を生むところを目撃したことがなく、謎は残されたままだった。
結局、発見から80年近く過ぎ、カモノハシが2cm以下の小さい卵をうみ、お腹に抱えて温めることが観察され、「卵を生むけど哺乳類」という分類に決まった。
今ではカモノハシは遺伝子の分析などにより、現在の哺乳類の先祖から進化してきた原始的な哺乳類に近い生き物だと考えられている。
さて、現代の私たちが、未知の“超生命体”に出会ったらどうすればいいか。
そのときは、かつてのカモノハシの研究のように、よく観察し、説明する言葉をつくろう。
何だかわからないものを説明する方法は、誰でもなく、自分の手で見つけなくてはならないのだ。
(文・篠澤裕介)
続報
ブラックライトを当てると蛍光を発する
2020年、オーストラリアの研究者が、剥製のカモノハシ、タスマニアデビルにブラックライト(紫外線)を当ててみたら、蛍光が観察できたと報告しています。本来、紫外線は目に見えませんが、人の目で見える別の波長の光がカモノハシの体の表面から出ていることをカメラで撮影しています。カモノハシ、タスマニアデビル以外にも、リス、オポッサムでも観察できているそうです。カモノハシが「哺乳類」というのは当たり前ではなかった、という18世紀から年月が過ぎましたが、まさかブラックライトで光る性質が、どういった哺乳類と近しい種なのかについて切り込んでいく新しい研究のきっかけになるとは思ってもいませんでした。
Anich, Paula Spaeth, Anthony, Sharon, Carlson, Michaela, Gunnelson, Adam, Kohler, Allison M., Martin, Jonathan G. and Olson, Erik R.. “Biofluorescence in the platypus (Ornithorhynchus anatinus)” Mammalia, vol. 85, no. 2, 2021, pp. 179-181. https://doi.org/10.1515/mammalia-2020-0027