計算科学から熱帯病にアプローチ – シリーズ:顧みられない熱帯病①

計算科学から熱帯病にアプローチ – シリーズ:顧みられない熱帯病①

『someone』201夏号の特集「くすりの告白」でも紹介したように、
膨大なデータを高速で処理できるスーパーコンピュータは
創薬の世界で活躍しています。

今回は、「計算科学」の研究者が集まるセミナーで、
創薬に関する新しい取り組みについて聞いてきました。

 

IPAB:並列計算機をバイオ分野へ

今回のセミナーを主催したのは、並列生物情報処理イニシアティブ
(IPAB;Initiative for Parallel Bioinformatics)です。
スーパーコンピュータなどの並列計算機が、バイオ分野で
もっと使われるようになるだろうという予測のもと、1999年に発足しました。

IPABの活動には、産学連携を進めるという目的もあります。
ITやビッグデータ解析といった情報分野の研究とバイオサイエンスを
どうやって結びつけていくか。
分野や業界を超えて人々が集まる、情報交換と啓蒙の場として活用されています。

そのIPABが今回のセミナーのテーマに掲げたのは
「顧みられない熱帯病(NTDs;Neglected Tropical Diseases)」です。

 

NTDs:顧みられない熱帯病とは

NTDsは、主に開発途上国の熱帯地域、貧困層を中心に蔓延している、
寄生虫や細菌ウイルス感染症のこと。
世界保健機関(WHO)が定めた17疾患群だけで、世界で10億人以上が
感染しているといわれています。

しかし、貧困や医療システムの不備から、多くの人が
必要な医療を受けられないままでいます。
そのことは、生命を脅かす健康問題にとどまらず、経済活動の足かせとなり、
さらなる貧困を呼ぶことになるのです。

「顧みられない熱帯病」がなぜ「顧みられない」のか――。
それには、いくつかの要因があります。

①患者の大多数は購買力が低い
 つまり、莫大な費用をかけて新薬を開発しても、製薬会社の儲けにならない
②戦略的な見地(軍・安全保障)から、研究開発の対象にならない
③研究開発が行われないから、新薬が開発されない
④また、患者の権利を組織的に守るグループが存在しない
                          (情報提供:DNDi

このような状況のNTDs治療薬開発において、
「計算科学」が貢献しようとしています。

 

iNTRO DB:治療薬候補物質を効率よく絞り込むシステム

「iNTRO DB」の開発に携わった、東京工業大学の 秋山泰教授(右)、石田貴士助教(左)

「iNTRO DB」の開発に携わった、東京工業大学の 秋山泰教授(右)、石田貴士助教(左)

 

 

 

 

 

 

 

 

東京工業大学 秋山泰教授、石田貴士助教を中心に開発された
データベース「iNTRO DB」は、トリパノソーマ科寄生原虫3種に関する
遺伝子、タンパク質、化合物の情報が統合されているシステムです。

利用者は、登録されている情報から、治療薬の候補となる物質を
効率的に絞り込むことができます。

現在、version 1.1が公開中で、このセミナーで初めてURLが公開されました。
このシステムは、誰でも利用することができます。

IPAB代表理事で東京工業大学 教授でもある秋山泰先生は、
「IPABにはさまざまな業種の人が参加して『オープンイノベーション』を
目指していますが、もっと多くの人に参加してほしいと思っています」と話します。

たとえば、インターネット上で世界中の誰でも意見を出せる場にしていきたいという
思いもあるようです。
また、学生など、若い人たちにも参加してほしいとのこと。

NTDsというテーマが、「計算科学」に人々の興味をひく
新たなきっかけになるかもしれません。

シリーズ②では、このIPABセミナーの講演内容を紹介します。

 

※ 2013年8月19日、世界初の NTDs 創薬研究向け統合型データベース「iNTRODB」が
第 11 回産学官連携功労者表彰において厚生労働大臣賞を受賞しました。

プレスリリース:http://www.titech.ac.jp/file/pr20130819_Akiyama_asteras.pdf

おめでとうございます!