人間が重さを感じるしくみにせまる 満田 隆

人間が重さを感じるしくみにせまる 満田 隆

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情報理工学部 知能情報学科 満田隆 教授

映画やテレビで広まった3D映像や,臨場感溢れる音響システム。視覚に加えて,五感を利用することで臨場感の高いバーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR)が出現してきています。ものを触ったときに硬さや形状を感じる「力覚」も,私たちがリアルを感じる感覚のひとつとしてVRに利用されています。

満田隆

ロボットと人間の違い

私たちはどのようにして「力覚」を感じているのか。そんな人間のしくみを解き明かそうとしている満田先生。元々専門としていたロボットの分野では,関節のモータにかかるねじれの力から重さを割り出すというしくみが使われます。ところが人間は,モータの代<か>わりに筋肉がどれだけ力を出しているかによって,重さを割り出しているわけではないようです。「力を入れると筋肉だけでなく,皮膚も変化するし,血流状態も変わります。人間はもっといろんな情報を使って重さとして感じているんじゃないか」。先生は,ロボットとは異なる人間の重さを感じるしくみの謎に挑んでいます。

圧迫と重みは紙一重?

「手首を握ったときに重い感じがした」という自身の経験を元に,先生が発見したのが,手首を圧迫することで重さを感じる錯覚を起こすという現象でした。くわしく調べるため,5人に対し,目を閉じた状態で,右手首は血圧計のベルトで圧迫し,同時に左手首には重りが入った箱を吊り下げます。左右の重量感が同じと感じたときの圧迫の強さと重りの重量の関係を調べました。すると,2kPaの圧迫では約400gf(グラム重)の重さ,6kPaの圧迫では約1kgfの重さを感じるというように,圧迫の強さに応じて確かに重量感を感じることがわかったのです。

人間が重さを感じるしくみにせまる

当たり前を疑え

最近の実験では,足首でも圧迫による重さを感じ,さらに,圧迫の箇所とはまったく異なるにも関わらず,足を上げるのに使う太ももの筋肉が,圧迫の際に刺激されていることがわかってきました。一方,物を持ち上げるために肘を曲げたときには,上腕の筋肉が使われますが,手首を圧迫したときに,同じ筋肉が刺激されるかどうかはまだわかっていません。

「教科書でも,少し前に書いていたことが,数年経つと間違いだったということがある。なんでも常識にとらわれず疑いをもって考えることが大事」。私たちが知っているのはまだ世界のほんの一部で,自分がどんな情報を使って重さを感じているのかすら完全にはわかっていません。先生は人間への尽きない好奇心をもって,研究を続けています。