人の命を支えるために、患者と学生に向き合う 大塚 一幸

人の命を支えるために、患者と学生に向き合う 大塚 一幸

19世紀の抗体の発見に始まり、今日に至るまで、日本の研究が世界をリードしている分野が免疫学だ。 製薬会社の研究所に務め、今はバイオ技術を身につける専門学校で教える大塚一幸さんは「人のためになる研究」に魅せられ、患者のそばに立つことで、移植手術を成功に導く薬を日本に広めた。

移植手術の難しさ

私たちは、病気や事故などで心臓や肝臓などの臓器が働かなくなったとき、「移植」で他の人から新たな臓器を提供してもらうことができる。 しかし、からだには細菌やウイルスなど侵入物から身体を守る免疫システムがあるため、移植された臓器を侵入物とみなして攻撃する「拒絶反応」が起こる。 移植を成功させるためには自分の免疫細胞の攻撃力を弱めなくてはならない。 大塚さんが製薬会社で研究していたのが、タクロリムスという免疫細胞の攻撃力を抑える薬だ。 免疫細胞の中で攻撃を担当する細胞は、侵入物を認識すると数を増やして攻撃力を高める。 タクロリムスはこの細胞増殖を抑えて攻撃力を弱める。 だからこの薬を使うと、拒絶反応を抑え、臓器移植が可能になる。

患者のために

しかし、タクロリムスにも課題があった。 免疫細胞の増殖を抑えることでウイルスや細菌への抵抗性も弱めてしまうため、投与量の見極めがとても難しい。 拒絶反応を防ぎつつ、免疫力は維持するというバランスに患者の命運は託されるのだ。 そこで、大塚さんは病院へ出向き、患者ひとりひとりの容体の変化を記録していった。 そうすることで、医師でも判断が難しかった投与量を見極め、タクロリムスによる臓器移植を成功させたのだ。 患者から「あなたと薬のおかげでわたしの命は助かっています、ありがとう」と言われたとき、何にもかえがたい感動を味わったという。

学生に想いを託す

「人のための研究であれ」という想いは、現在所属する大阪バイオメディカル専門学校での学生指導にも通じている。 「今注目を集めているiPS細胞をもっと簡単に扱うことができれば、研究が前進するはず。 学生と一緒にそんな技術を開発して、研究成果を早く患者に届けられるようにしたい」。 そのため、大学の研究室さながらの高度な実験ができる新しい研究スペースを作ったという。 そんな大塚さんの元からは、バイオ技術を学び、病気に苦しむ人たちから「ありがとう」と言われることを夢見る学生が羽ばたいていく。