動けない植物の、たくみな光戦略を探る 笠原 賢洋

動けない植物の、たくみな光戦略を探る 笠原 賢洋
生命科学部 生物工学科 笠原 賢洋 教授

光のほうへ光のほうへと身体を伸長させる植物たち。この「光屈性」と呼ばれる現象以外にも,植物は光を利用して,季節や昼夜などの環境変化を感知しています。植物にとって,光情報は光合成に必要な光をどれだけ多く浴びることができるかにも関わる,生存に欠かせない情報なのです。

笠原先生

光を感知する植物の目

単純に光合成のために強い光を多く浴びればいいというわけでもありません。強すぎる日中の太陽光を浴び,光合成を行い続けると活性酸素が大量に発生し,細胞内が傷んでしまいます。そこで,日陰に避難できない植物は,ほんの数十分の間に,葉緑体を細胞側面に避難させる能力を持っています。逆に,光が弱いときには,細胞表面に葉緑体を集結させることで,効率よく光を利用しているのです。

植物の目として欠かせないのが,光を受け取るタンパク質「光受容体」です。光屈性や葉緑体の運動を起こすのに青色光の効果が大きいことが100年以上前から知られていました。しかし青色光を受け取る光受容体「フォトトロピン」が見つかったのは1997年と比較的最近のことなのです。

フォトトロピンが制する葉緑体運動

笠原先生「植物は私たちがまだ知らない光情報の利用のしかたをしているかもしれない」と語る笠原先生は,遺伝子改変が可能なヒメツリガネゴケというコケ植物を使って,フォトトロピン遺伝子を破壊し,その働きをくわしく調べました。

ヒメツリガネゴケでは,青色の他に赤色光によっても葉緑体運動が起こることが知られています。赤色光はフィトクロムという別の光受容体で受け取られるのですが,フォトトロピンを破壊すると,なぜか赤色光による葉緑体運動も阻害されてしまうことがわかりました。このことから,赤色光を受け取ったフィトクロムは,一度フォトトロピンへと情報を伝えて,葉緑体運動を起こしていることがわかったのです。

知られざる光の利用法を明らかにする

植物が光合成以外に光を利用していることが初めて報告されたのは1880年のダーウィンによる光屈性の報告でした。それ以来,多くの研究者によって研究されてきました。「光屈性のように,目に見える大きな変化が起こる現象は調べ尽くされているかもしれません。でも,タンパク質レベルでは,まだわからないことだらけ」。最近になって,ヒメツリガネゴケが,これまでに知られていた光受容体とは別に,LOV/LOVタンパク質という光受容体をもつこともわかってきましたが,光の情報をどう活用しているのか,やはり謎のままです。先生の研究が,植物だけが知っている光の利用のしかたを明らかにするかも知れません。