解法が見つかるギリギリを極める 安富健児

解法が見つかるギリギリを極める 安富健児
理工学部 数理科学科 安富健児 准教授

サイコロで1が出る確率を聞かれると誰もが1/6と答えます。しかし,実際に6回に1回必ず1が出るわけではありません。そこで,試行回数を600回,60000回と増やし,無限大に近づける極限定理を用いると,「確率1/6」を導き出すことができるのです。極限定理を使って,「真の乱数」をにせまってみましょう。

安富先生

正しくつくれない“正しい”乱数

乱数とはランダムに並んだ数字の列のことをいいます。コンピュータでは暗号作成やパスワードなどに使われますが,実はコンピュータには「真の乱数」をつくることができません。正確に動くためにつくられたコンピュータだからこそ,ルールがないランダムというものを扱えないのです。しかしそれでは困るので,乱数のような「擬似乱数」をつくる方法が存在しています。安富先生はある種の「擬似乱数」がどれほど「真の乱数」に近いのか,その指標を明らかにしました。

乱数っぽさを明らかに

先生の着目した擬似乱数のつくり方では,円周率や√2などの「無理数」を使います。小数点以下の数字が無限に続く無理数どうしを加算しても,有理数になることはありません。そのため,これを材料に使うことで,ランダムな数列をつくっています。

一方,「真の乱数」が持つ条件として,複数の乱数を生成しても,「すでにつくられたものから予測がつかない」こと,特定の区間の数ばかりという「偏りがない」ことの2点が挙げられます。先生は得意な極限定理を用いて,無理数の小数点以下の桁数を無限大まで扱うと,この2つの条件を満たすことを証明しました。

実際に,無限大の桁を扱うことはできませんが,扱う桁数が100桁,1000桁と増えるに連れて,個々の擬似乱数が独立し予測しにくく,かつばらつきがよくなります。つまり,扱う桁数が「どれだけ『真の乱数』に近いのか」を表す指標になるのです。指標があることで,ユーザが状況に応じて,どの精度の擬似乱数を使うかが選択できるようになったのです。

しびれるような数学の美しさ

安富先生この証明,「見た瞬間にできるとわかった」と言う先生。それを実際に証明していく過程は,少し面倒と言いながらも,きれいに証明が通ったときの感覚が楽しくてやめられないのです。しかも,「ある限られた条件の中でだけ,そこでなら成立するというギリギリを証明できるとさらに美しいと感じる」と語ります。

さまざまな条件と身に付けた定理を,パズルのように組み合わせ,その先に出てくるただひとつの解に到達する瞬間,先生はぞくぞくするのです。

掲載内容は取材当時の情報となります
立命館大学理系学部研究紹介マガジン:芽が出る理系マガジンも御覧ください