「動き」を追究し、機械の可能性を広げる 馬書根

「動き」を追究し、機械の可能性を広げる 馬書根

理工学部 ロボティクス学科 馬書根 教授

高速で走る新幹線では,トンネル通過時の破裂音が大きな課題になっていました。そこで,空中より抵抗の大きい水中に一気に入るカワセミの姿をヒントに,断面の変化などを分析し,先頭車両や後部車両の形状がつくられました。このように,私たちのアイデアと工夫次第で機械の可能性はさらに広がります。

機械の「動き」をつくるアイデア

「最も正確に安全に動くことができるものは機械で,逆に最も信頼性が低いのはソフトウエアです。一番ダメなのが人間かもしれない」と話す馬先生。機械の活躍が期待される一方で,動くために必要となるモータなど,エネルギーを消費するものをいかに減らすことができるかが課題だと言います。
先生のクローラロボットは,2つの歯車のまわりにベルトをかけた,ブルドーザの駆動部のようなしくみを採用しています。このような駆動部が前進中に障害物に当たると,通常なら前部から障害物に乗り上げます。また,障害物が高くなると止まらざるを得なくなります。そこで,先生は発想を転換し,ロボットが障害物に当たった時点で障害物の反発力を有効に利用して後部が持ち上がり,前部を中心に駆動部全体が回転する機構を取り入れました。ひとつの回転運動を利用し,前進だけでなく,障害物を登っていく上下への動きをも実現しました。

興味を持った動きを見つけて,追究する

新幹線の例のように,先生も,物理的な機構だけではなく,生きものに目を付けています。たとえばヘビは,単純な形状をうまく使って移動しています。上下に波打ち動くヘビは,接地点を支点にからだを前に押し出して進みますが,水平方向に波打つものは,からだ全体を横方向にスライドさせながら動きます。この動きを追究した結果,複数の関節ユニットをつなぎ,接続部分の回転運動だけで移動を可能にしたヘビ型ロボットの研究につながっています。
過去に分析し,応用したムカデ,象の鼻,ミミズなどに続き,今は「鳥の滑空を飛行ロボットなどに応用できないか」と新たな「動き」に興味の目を光らせます。

数学や物理,確かな基礎が形になる

馬先生人の歩く動作と比べて二足歩行ロボットがぎこちなく見えるのは,人が歩く,走るといったシンプルな動きもそれだけ複雑なしくみでできているからです。しかし,数学や物理などの確かな基礎知識があれば,人の動きの中にある「重心の上下による位置エネルギーと運動エネルギーの変換」などさまざまな法則を見つけることができ,「機械と生物をつなぐことができる」と先生は言います。大事なことは,「真似をすることではなく,機能を実現すること」と語る先生は,ヒントを見つけ,そのメカニズムを探究し,工夫をこらして実現する,そうやって機械の可能性を広げ続けています。